埼玉県熊谷市で犬猫の繁殖販売業を営んでいた元夫婦の男女が1993年頃、犬の売買をめぐりトラブルになった客など4人を相次いで殺害したとされる埼玉愛犬家連続殺人事件。その主犯格の関根元死刑囚(75)が3月27日、収容先の東京拘置所で病死した。稀代の猟奇殺人犯として知られた関根死刑囚だが、娘にはデレデレの甘い父親という一面を持っていた。

関根死刑囚が営んでいた犬猫の繁殖販売業の犬舎

◆「お父さんっ子」だったという娘

「ボディを透明にする」。自分の殺人手法をそう豪語していたとされる関根死刑囚。被害者たちの遺体を細かく解体して燃やしたうえ、残骸を山や川に遺棄し、殺人事件の存在自体をほぼ完ぺきに証拠隠滅していたことから、検挙に至るまでに警察捜査は難航したとされる。ミュージシャンの泉谷しげる似の武骨な風貌。ライオンや熊を家で飼っていたというワイルドな私生活などは猟奇殺人犯らしいエピソードには事欠かない。

私がそんな関根死刑囚に関心を抱いたのは、共犯者とされて一緒に死刑確定した元妻の風間博子氏(60)について、冤罪の疑いを抱いたのがきっかけだ。確定判決では、風間氏は4人の被害者のうち、3人の被害者の殺害を関根死刑囚と共謀したとされるが、裁判では「関根の指示に逆らえず、遺体の損壊や遺棄に一部関わっただけだった」と冤罪を主張。実際、風間氏が前夫との間にもうけていた息子は「母は、関根のDVに苦しみ、奴隷のようだった」と証言し、「関根には逆らえなかった」という風間氏の主張を裏づけていた。風間氏は現在も支援者らに支えられ、無実を訴えて再審請求を行っている。

一方、良い話があまり聞かれない関根死刑囚だが、風間氏との間にもうけた娘Nさんによると、実の娘にはデレデレの甘い父親だったという。

「父は、母や兄には暴力をふるっていましたが、私には本当に優しくて、何をしても怒りませんでした。それに私が何か欲しいと言うと、何でも買ってくれました。思い出のプレゼントは、小学校3年生の時に買ってくれたテディ・ペアのヌイグルミ。当時の私と同じくらいの身長で、一目ぼれした私が『欲しい』と言ったら、父が『買おうか』と言って買ってくれたんです」

今から3年ほど前、Nさんは私の取材に対し、懐かしそうにそう語った。関根死刑囚のことが大好きで、「お父さんっ子」だったと自認する彼女の話を聞いていると、稀代の猟奇殺人犯も普通の父親としての顔を持っていることを感じさせられた。

◆娘への手紙に書いていた「ある言葉」の意味は……

関根死刑囚が病死するまで収容されていた東京拘置所

Nさんによると、20歳の頃に一度、関根死刑囚から「会いに来て欲しい」という手紙をもらったが、その時は「父がどんなふうになっているのか見るのが怖くて・・・」と面会に行かなかった。すると、関根死刑囚はそれ以来、Nさんの面会に応じなくなり、関係が途絶えてしまったという。そんなNさんが気になっているのが、関根死刑囚がかつて手紙に書いてきた「ある言葉」だ。

「父からの手紙には、『お母さんをNのもとに帰してあげるね』と書いてあったんです。あれは一体何だったんだろうと・・・」

殺人については無実を訴えていた風間氏が裁判で関根死刑囚と共謀して3人を殺害したと認定された大きな要因は、関根死刑囚が「犯行を主導したのは妻だった」と証言していたことだ。関根死刑囚がNさん宛ての手紙に書いてきた言葉を素直に解釈すれば、関根死刑囚は風間氏が無実であるという真実を打ち明け、風間氏に再審で無罪を取らせることを考えていたのではないか。

この私の推測が当たっているか否かについて、関根死刑囚本人の口から真相が語られることはもう永遠にない。残念だ。

※なお、拙著「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(鹿砦社)では、風間氏が有罪、死刑とされた裁判の問題点が詳述されているほか、風間氏が自分の潔白や子供たちへの思いを綴った手記を収録されている。


◎[参考動画]埼玉愛犬家連続殺人事件起訴へ(1995年2月ニュース映像)

◎[参考動画]埼玉の愛犬家殺人 関根死刑囚が病死(NHK3月27日10時24分)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン

2014年に神戸市長田区で小1の女児、生田美玲ちゃん(当時6)が殺害された事件で、殺人や死体損壊・遺棄、わいせつ目的誘拐の罪に問われた君野康弘被告(50)に対する控訴審の判決公判が3月10日、大阪高裁であり、樋口裕晃裁判長は「殺害に計画性が認められない」などと述べ、第一審・神戸地裁で裁判員らが下した死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。前日に判決公判があったミナミ通り魔殺人事件の礒飛京三被告(41)から2日連続で大阪高裁が裁判員裁判の死刑判決を破棄した形だが、実を言うと、君野被告の死刑判決破棄は初公判の前からあらかじめ決められた結論だったふしがある。

死刑判決を破棄した大阪高裁

◆たどたどしい受け答え

昨年12月16日、大阪高裁の第201号法廷で行われた君野被告の初公判。上は紺色の薄手のダウンジャケット、下はグレーのスウェットパンツという姿で現れた君野被告は、逮捕から2年以上続く獄中生活のためか、顔は青白かった。短く刈り込んだ頭髪も白いものが目立ち、いかにも生命力が弱そうな印象だった。

この公判では、被告人質問も行われたが、君野被告は法廷に現れた時の印象通り、たどたどしい受け答えに終始した

弁護人「一審判決では自分の身勝手さや攻撃性と向き合ってないと言われたけど、どう思った?」
君野被告「その通りだと思いました」
弁護人「今はいきなり首を絞めたり、包丁で刺したことをどう思ってる?」
君野被告「・・・・・・」
弁護人「現在はどう思ってるんだろう?」
君野被告「・・・・・・しっかり反省し、これからはそういうことがないようにしたいです」
弁護人「自分がしたことをどう思う?」
君野被告「ひどいことをして申し訳ないという思いがますます深まっています」

いまいちかみ合わないやりとり。反省しているのを訴えたい思いは感じるが、それを実現できない貧しいボキャブラリー。一審の死刑判決は君野被告について、〈知的能力は、心理検査の点数上は知的障害と正常の境界域にある〉としていたが、実際そうなのだろう。

一審の死刑判決によると、君野被告は下校中の美玲ちゃんにわいせつ行為をしようと、「絵のモデルになって欲しい」と声をかけて自宅アパートに連れ込んだ。そして騒がれずに身体を見たり触ったりしたいと考え、美玲ちゃんの首をビニールロープで絞め、包丁で首を4回以上刺して殺害。その挙げ句、死体を包丁でバラバラにして複数のビニール袋に入れ、近くの雑木林に遺棄したとされる。社会を騒がせた凶悪事件の犯人が普段は弱々しい人物であることは珍しくないが、君野被告もまさにその1人だった。

◆検察官の追及にタジタジに

それでも弁護人の尋問では、君野被告は日々、被害者の冥福を祈りながら写経をし、反省を深めていることを訴えた。しかし、検察官の反対尋問では案の定、厳しい追及によりタジタジにされてしまうのだ。

検察官「反省が深まったというのは一審でも言っていましたが、それ以後、具体的に反省がどう深まったの?」
君野被告「・・・・・・」
検察官「答えられない?」
君野被告「・・・・・・はい」
検察官「じゃあ、般若心経を写経しているそうだけど、その般若心教がどういう意味かは調べてるの?」
君野被告「・・・・・・」
検察官「本で勉強したことはないの?」
君野被告「あります」
検察官「どういう意味だと書いてあった?」
君野被告「忘れました・・・・・・」

公判慣れした検察官にとっては、君野被告のような知的能力の低い被告人を追及し、答えに窮させることはきっと朝飯前なのだろう。

一方、弁護側は君野被告が美玲ちゃんを誘拐した動機について、「わいせつ目的ではなく、お酒を飲みながら話をしたかった」と主張。さらに現在、養子縁組をして君野被告を支えようしている女性が存在することなども死刑回避の事情になりうることだと訴えていた。

だが、質問役として登場した美玲ちゃんの母からは逆に「あなたが養子縁組をしたと聞いて、私たち家族がどんな気持ちになるか考えなかったんですか?」と責め立てられ、君野被告は「すみません。考えませんでした」と小さくなるばかり。何をやっても裏目になっている印象だった。

◆年度内に片づけたい思惑がミエミエだった裁判長

では、初公判はそんな状態だったにも関わらず、なぜ死刑破棄が「あらかじめ決められた結論」だったと言えるのか。それは、樋口裁判長が初公判の最後に「第2回公判で結審しますので、第2回公判の日時だけでなく、判決公判の日時も決めてしまいしょう」と言い、初公判が終わった時点で早々と判決公判を「3月10日か同15日」と決めてしまうなど「この事件は年度内に片づけたい」という思惑がミエミエだったからである。

私はその様子を見ながら、樋口裁判長らは「控訴棄却」という結論を決めて初公判に臨んでいるのだろうとばかり思っていた。しかし実際には、死刑回避を最初から決めていたのである。大阪高裁で2日連続で起きた、まったく予想できない死刑判決の破棄。裁判とは本当にわからない。

君野被告が収容されている大阪拘置所

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン

不当逮捕で長期勾留されている沖縄平和運動センター議長の山城博治さん

15日に発売された『NO NUKES voice』第11号には福島現地からの声も当然満載されている。特集Ⅰは「3・11から6年──福島の叫び」だ。原発事故をきっかけに大熊町の町会議員になった、木幡ますみさんは震災が起きたあの日、あの時刻に偶然にも友人たちと「原発震災」の話をしておられたそうだ。まさかの偶然が現実の悪夢となって、どれほど恐ろしい思いをされたことであろうか。木幡さんは静かに、ひたひたと怒りをつづっている。

原発推進標語「原子力明るい未来のエネルギー」が街に飾られる標語に採用された経験を持つ大沼勇治さんは、この6年間、被災地で脚光を浴びた方の一人でもあった。自身が「騙されて」作った標語を未来への教訓として残すべく、双葉町に働きかけたり、本誌でご紹介した通り、元の標語の前に立ち原発を批判するメッセージを掲げたり様々な行動をしてこられた。大沼さんだからこそ味あわなければならなかった、苦渋と決意があかされる。佐藤幸子さんは事故後早い時期から文科省をはじめとする政府機関や東電への抗議の先頭に立ち、鋭い批判や行動力を発揮されてきたが、運動の中でも過酷な事態に直面したことを告白されている。福島敦子さんは京都へ避難し裁判闘争に直面せざるをえなくなる。

被災者は異口同音に政府の欺瞞を糾合し、健康被害への過小評価、事故は「無かったこと」にしようとする政府を中心とする動きに真っ直ぐな異議を申し立てている。健康被害同様、事故の「風化」への危機感も同様だ。何よりもまず、被災しながらくじけることなく闘い続ける人たちの声を聞こう。専門家と自称し嘘を語って儲けにしている人間に対しての対抗言語の最強の反撃は、闘い続ける被災者の声の中にある。

特集Ⅱは「逆流の原発輸出 本流の原発破綻」だ。間もなく上場廃止が避けられない状況まで屋台骨が傾いた「東芝」。優秀な電気関連機器、半導体メーカーとしてその名を世界にとどろかせていた「東芝」は原発に深入りし過ぎたために、破たんを迎える。山崎久隆さんの解説は日経新聞よりも正しく詳細にその原因を解き明かす。

森山拓也さんはトルコへの原発輸出策動を現地の人がどのように受け止めているかを、トルコの反原発運動家の声を通じて紹介している。井田敬さんは先日憲法裁判所がパククネ大統領弾劾を決定するに至った韓国における市民運動と原発産業の現状を、昨年11月自身が訪韓した際の取材を中心に報告する。100万人を超える集会が開かれている大事件を多くの日本人は知らない。井田さんの報告はパククネ弾劾に至る韓国の多様な市民運動の姿を知る格好のテキストだ。佐藤雅彦さんは「原発ゼロの世界地図」を解説、須藤靖明さんは主として九州の火山と原発の危険性を指摘する。

その他各地の運動情報や報告も満載だ。『NO NUKES voice』は絶対に福島第一原発事故を風化させない。

国際的にも不当な長期勾留が問題視される中、一刻も早い山城さんの保釈を!

◆山城さんの「訂正と謝罪」文をそのまま1頁掲載

ところで、本号には少し異色な1頁がある。本日17日、那覇地裁で初公判をむかえる沖縄平和運行センター議長、山城博治さんからの「山城博治インタビュー記事に関する訂正及び謝罪」だ。山城さんには『NO NUKES voice』10号にご登場頂き、私が伺ったお話をそのまま掲載した。ところが取材直後に山城さんは不当逮捕されてしまい接見禁止とされたために、ご本人にインタビュー原稿を確認して頂くことが出来なかった。

編集部としては問題なしと判断しそのまま前号に山城さんのインタビューを掲載したのであるが、拘置所にいまだに閉じ込められている山城さんが前号をお読みになり、弁護士の先生を通じて「訂正をしたい」旨のご連絡があった。通常の取材であれば、取材に応じて頂けた方に確認をして頂いた後に記事を掲載するのだが、上記の事情により山城さんご本人に確認することなくインタビュー記事を掲載し、それにより山城さんには大変なご心配をおかけしたことを、私自身深く反省し、お詫びを申し上げたい。

山城さんの「訂正と謝罪」は頂いた文章をそのまま1頁掲載した。「訂正と謝罪」にも山城さんのお人柄が溢れている。重ねて山城さんと、訂正記事掲載にご協力いただいた沖縄平和運動センターの皆様と弁護団の先生方にお詫びとお礼を申し上げる。国際的にも不当な長期勾留が問題視される中、一刻も早い山城さんの保釈を!


◎[参考動画]脱原発集会での山城博治さんのスピーチ(2016年3月26日原発のない未来へ!全国大集会)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求める『NO NUKES voice』11号

『NO NUKES voice』11号発売開始!

2012年6月に大阪・ミナミの路上で2人の男女が殺害された通り魔殺人事件で、殺人罪などに問われた礒飛京三被告(41)の控訴審判決公判が9日、大阪高裁で開かれ、中川博之裁判長は「計画性は低く、精神障害の影響を否定できない」などと述べ、一審・大阪地裁で裁判員らが下した死刑判決を棄却し、無期懲役を宣告した。この結果は私にとって、大変意外なものだった。前回公判を傍聴した際、死刑が回避されそうな雰囲気は微塵も感じられなかったからである。

礒飛被告が凶器の包丁を購入した現場近くの百貨店

◆「地裁の判決に従ってもらいたい!」

「今からでも遅くはありません。すみやかに控訴を取り下げ、地裁の判決に従ってもらいたい!」

昨年12月22日、大阪高裁の第201号法廷。被害者参加制度を利用し、公判に出席した被害者遺族の男性は証言台から被告人と弁護人に対し、怒鳴りつけるようにそう言った。被告人席の礒飛被告は表情こそポーカーフェイスだったものの、メモをとる手がとまって身をすくめ、遺族の怒りの意見陳述に気圧されているような雰囲気が窺えた。

覚せい剤取締法違反で2度の服役歴がある礒飛被告が事件を起こしたのは、2度目の服役を終え、出所した翌月だった。生まれ育った栃木で仕事が見つからず、刑務所内で知り合った男から「仕事を紹介してやる」と言われて大阪へ。しかし、紹介された仕事は詐欺や覚せい剤の密売人だったため失望。そして翌朝、覚せい剤精神病による「刺せ。刺せ」という幻聴に促され、ミナミの路上で音楽プロデューサーの南野信吾さん(当時42)と飲食店経営の佐々木トシさん(同66)の2人を包丁でめった刺しにして殺害したのだ。

◆遺族の陳述により死刑維持の雰囲気が出来上がっていたが……

一審・大阪地裁の裁判員裁判は責任能力の有無が争点になったが、判決は犯行時の礒飛被告に完全責任能力が認め、死刑を選択した。この地裁の死刑判決に従うように法廷で礒飛に求めた冒頭の男性は、南野さんの実父Aさんだ。近年、心臓と大腸ガンの手術を相次いでうけ、「今ここに立っているのが奇跡に近い状態」というAさんが気力を振り絞って繰り広げた20分余りの意見陳述は怒りと悲しみに満ち溢れ、凄まじい迫力だった。

「生命の代償は、生命しかありえない!」と礒飛に強く訴えたかと思えば、亡き息子になりきり、「これからという時になぜ、俺を刺す? なぜ、君は音楽に救いを求めなかったのか?」と礒飛に語りかけたAさん。礒飛被告にとって、遺族から浴びる怒りや憎しみの言葉は検察官の死刑求刑などよりはるかに重く感じられたことだろう。

その後、佐々木さんの長男や南野さんの妻も意見陳述したが、「一審の判決後、弁護士を通じて謝罪文を渡したいと言ってきましたが、控訴しておいて何を謝罪するんですか」(佐々木さんの長男)、「夫は還ってこないのに、なぜ礒飛は生きているのでしょうか」(南野さんの妻)などとそれぞれ被害者遺族ならではの鎮痛な思いを吐露。この時も法廷は終始、緊迫したムードだった。遺族の意見陳述が終わった後、礒飛被告が被告人質問で「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と反省の言葉を述べたが、裁判官たちが心を動かされたような様子は微塵も感じられなかった。この公判を傍聴していて、死刑判決が破棄されることを予想できた者はおそらくいなかったろう。

2008年12月に被害者参加制度が始まって以来、同制度を利用して刑事裁判に参加した犯罪被害者や遺族が被告人に質問したり、求刑意見を述べるケースは年々増えている。この件に関し、裁判官や裁判員が犯罪被害者や遺族の意見に影響され、厳罰化が進むのではないかと指摘する声は一部にあるが、私もその指摘は当たっているのではないかと思っていた。しかし、この裁判の控訴審は遺族の意見から完全に独立したものだった。裁判とは、本当に先が読めないと私は再認識させられたのだった。

礒飛被告が南野さんと佐々木さんを刺殺したミナミの路上

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン

2012年10月に広島の放送局「中国放送」の元アナウンサー・煙石博(えんせき・ひろし)氏(70)が自宅近くの銀行店内で他の客が記帳台上に置き忘れた封筒から現金6万6600円を盗んだ容疑で逮捕された事件について、本日(10日)午後3時から最高裁第二小法廷(鬼丸かおる裁判長)で煙石氏の上告審判決公判が開かれる。

煙石氏は一貫して無実を訴えながら、1審・広島地裁で懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を受け、2審・広島高裁でも無実の訴えを退けられたが、最高裁は本日、煙石氏に逆転無罪判決を宣告することが確実視されている。それに先駆け、7日に広島弁護士会館で弁護人・久保豊年弁護士と共に会見を開いた煙石氏は、改めて無実を訴えると共に自分を冤罪に貶めた警察、検察、裁判官たちの悪事を告発した――。

◆4年を超す人生の貴重な時間を奪われた

最高裁では1年に数千件の事件で判決や決定を出しているが、2審までの有罪判決を覆し、逆転無罪判決を出すことは年に1件あるかないかだ。そんな中、煙石氏が本日、最高裁で逆転無罪判決を宣告されるのが確実視されている理由は、先月17日、最高裁第二小法廷で弁護人と検察官がそれぞれ弁論する公判が開かれたことだ。最高裁は通常、審理を書面のみで行い、公判審理を行うのは、「2審までの結果が死刑の事件」と「2審までの結果を見直す事件」に限られる。煙石氏は後者に該当するとみられているわけだ。

当欄で2013年よりこの事件が冤罪であることを伝え続けた私としても、この明白な冤罪事件の裁判が逆転無罪という形で決着するのは大変うれしいことだ。だが、だからといって、おめでたいことだと喜んでばかりもいられない。なぜなら、このような明白な冤罪事件で逮捕、起訴され、2度も有罪判決を受けた煙石氏やご家族は4年を超す人生の貴重な時間と膨大な裁判費用など様々なものを奪われたからだ。

その煙石氏が7日に広島弁護士会館で開いた会見で読み上げた声明文について、今のところ全文公開しているメディアは見当たらない。警察、検察、裁判官がいかにひどかったかを詳細に訴えたその内容をより多くの人に知ってもらいたいので、いよいよ逆転無罪判決が出る今日、ここで全文を公開しよう。

・・・・・・・・・・以下、煙石氏の声明文・・・・・・・・・・

私は煙石博です。6万6600円を盗ってもいないのに、盗ったとされました。

私は無実です。この事件で、定年後の、人生の貴重な時間と仕事を失ってしまっただけでなく、長年、私の築いてきた信用と信頼を一気になくし、私の人権も社会的存在も失ってしまいました。さらに私の家族にも大きな負担をかけ続けてきました。私はお金を盗ってはいません。無実です。

最高裁が1審・2審の判決を見直すとして、弁論を開くということは、本当にまれなケースだそうですが、2月17日にその弁論を傍聴しました。弁論の後、司法記者クラブに移動して、共同記者会見に臨みました。その時、私の思いとこれまでの事の次第を20分余り話しましたが、この時の様子は、すでに私のホームページに立ち上げていますので、ぜひご覧下さい。

今日は、これに少し補足もしますが、かいつまんで申し述べます。

無実を訴えると共に捜査や裁判の不当性を告発した煙石氏(2017年3月7日、広島弁護士会館にて)

◆最高検検事の弁論に言い表せない怒りがこみ上げた

最高裁の弁論では、久保豊年弁護士は、論理的な説明によって、私の無罪を主張して下さいました。最高検の野口元郎検事は、1審・2審の論理的でない判決をそのまま信じて、上告棄却を求めてきましたが、すべて結論は「有罪」ありきの、防犯カメラの映像の真実にも背いた、あまりにもひどい、非常識な内容で、改めて、言い表せない程の怒りがこみあげてくる弁論でした。特に防犯カメラの映像に関しては、「防犯ビデオの映像自体によって被告人が封筒から現金を抜き取ったと断定することは困難であるが、他方で、防犯ビデオの映像は、被告人がそのような行為に及んでいないことを明らかにするものでもない。すなわち、被告人が、一旦記帳台を離れてから再び戻ってくるまでの間に封筒から現金を抜き取ったか否かという点に関して、防犯ビデオの映像は、どちらの側にも決定的な証拠となるものではない」と言いました。

そんな馬鹿な、と思いました。1審の広島地裁、2審の広島高裁はその防犯カメラの映像を証拠に、私に懲役1年・執行猶予3年という有罪判決を下しました。その後、私も防犯カメラの映像を何回も見ましたが、普通に見れば、私がお金を盗っているような動作やしぐさはありません。最高検の検事はそれを認めたのです。この4年4カ月は何だったんでしょうか?

私は、広島銀行大河支店で6万6600円を盗ってもいないのに、盗ったとされていますが、全く身に覚えがありません。広島地裁・広島高裁の判決は不当判決です。私は無実です。

◆机をたたいたり、すごんだりして自白を強要された

私は、2012年10月11日の朝、突然やってきた刑事2人に「防犯カメラの映像に証拠が映っている」と言って、逮捕状の呈示もなく逮捕され、広島県警の南警察署へ連行されました。取り調べ室で、「『防犯カメラの映像に、盗ったところが映っている』と言って、私をここへ連れて来たのですから、証拠の映像を見せて下さい」と何回も頼みましたが、聞いてもらえませんでした。

しばらくあって、刑事が、マスコミにニュースで出すようなことを言ったので、「私は犯人ではありません。容疑者ですから、マスコミには、まだ発表しないで下さい。よく調べて下さい」と頼みましたが、結局、私はお金を盗ってもいないのに、テレビでは当日、新聞では翌日、大きく報道されたことを家族との面会で知り、私は、人生も、すべてを失ったと思いました。

警察での取り調べは、尋常ではない取り調べで、最初から、私を犯人だと決めつけたストーリーを作っており、私はお金を盗ってもいないのに、刑事が作った「こうしてお金を盗ったのではないか」というひどい推測と、思い込みで、強引に話を進められました。私は、どうしても、私を犯人にしようとしている強い意志を感じ、恐怖感を覚えました。

「防犯カメラの映像は、誰が見ても、お前が盗っている。やったことを認めなければ裁判になって、法廷で防犯カメラの映像をみんなで見て、その映像がニュースで流されて、お前は恥をかくんだ!」などと、脅迫じみたことを言いながら、防犯カメラの映像は見せず、そうかと思うと、「6万6600円の窃盗はたいしたことはない。初犯だから刑も軽い、人の噂も75日、すぐに忘れる。すぐ社会復帰できる」と自白を誘導し、さらには、何度も「マスコミが報道したから、世間はお前を窃盗犯だと思っているんだ!!」「お前は頭がおかしいと思われるよ!」などと言ったり、机をたたいたり、すごんだりして、自白を強要されました。

◆検事はひたすら示談を勧めてきた

検察では、私は盗っていないと、一生懸命説明しましたが、検事は「盗ったか、盗らないかは別にして、6万6600円に色をつけて10万円位払えばすむことだ」と、とにかく最初から示談の説得ばかりされました。次の日もその検事は、「ゆうべも、防犯カメラの映像を何度も見たが、あなたは、お金を盗っている」などと言って、ひたすら示談を勧めました。おかしい話です。もし盗ったというのであれば、私が納得できる証拠をはじめから見せるべきではないでしょうか。取り調べの最後に、やっと防犯カメラの映像の一部を見せられましたが、もちろん、お金を盗っているところはありませんでした。

検事は「これ以上、事を荒立てないために、検事としては、変化球であるが、金を払って不起訴という方法を勧める」「これも有名税だと思え」などと言いましたが、私は絶対お金を盗っていないのですから、お金を払ってと言われても、どうしても納得がいきませんでした。私は、お金を盗っていないので、示談を断りました。すると検事は、その翌日に起訴しました。私は無実なのに、広島県警の南警察署の留置場に28日も勾留されました。

広島地裁での裁判は、1年近くかかって、防犯カメラの映像に、私がお金を盗っている映像がないのに、証拠がないのに、懲役1年・執行猶予3年という信じられない有罪判決が出ました。

もともと、刑事が「確たる証拠が防犯カメラの映像に映っているんだ」と言って逮捕したのに、その映像をなかなか見せず、裁判では、映像のクリア化を申し出ても拒否されました。さらに、証拠品の封筒には、私の指紋がついていませんでした。一番疑問に思うことは、「封筒に、お金が入っていなかったのではないですか」と初めから何回も刑事に言っていたのに、「もう調べてある」と言って、取り上げてくれなかったことです。

◆絶対に納得できません!

その後、2審の広島高裁では、専門の鑑定会社に依頼して、私が封筒にさわっていないということが明らかになりました。裁判官はその証拠を採用したにも関わらず、それを無視しました。裁判官は、「防犯カメラの映像には死角があり、封筒から現金のみを抜き取り、ポケットなどに隠匿するなどするのに十分な時間と機会があったといえる」などと無茶苦茶な推認で、1審の判決に誤りはないとして控訴棄却しました。

しかし、防犯カメラの映像を普通に見ていれば、お金を抜き取って隠す時間と機会はないことが、映像から十分確認できますし、お金を盗るような動きやしぐさは、防犯カメラの映像にはありません。納得できないことばかりです。以下の点は絶対に納得できません!

・封筒の中に現金が入っていたという、被害者の供述を鵜呑みにしていること

・防犯カメラの死角でお金を盗ったと言いますが、その死角がどこにあるか特定していないこと。私には、防犯カメラがどこにあるか、じろじろ様子を窺うことはできないし、ましてや、その死角がどこにあるかは、わかりません

・お金を盗ったと言うなら、いつ、どこで、どのように盗ったのかを特定していないこと

・1万円札6枚、千円札6枚、合わせて12枚のお札をポケットに入れたとすると、かなりの厚みになります。お札12枚と500円玉1枚と、100円玉1枚を、どうやって封筒から取り出し、どこに、どうやって取り込んだというのか、全く説明できていないこと

そもそも、常識的にも、500万円を下ろしに行って、他人のお金を、危険をおかしてまで盗りませんし、もし、お金を盗るなら、最初から封筒ごとポケットに入れて、そのまま持って帰るでしょう。お金だけ抜いて、元の記帳台にまで、わざわざ歩いて行って、証拠になる封筒を元に戻すなどという窃盗ストーリーは、絶対にあり得ません。

◆警察、検察、広島地裁・高裁に大変な不信感と激しい憤りを感じている

報道陣の質問に答える久保豊年弁護士(2017年3月7日、広島弁護士会館にて)

久保豊年弁護士は、最高裁への追加補充書に、防犯カメラの映像の確かな部分、最後に警備員が記帳台から封筒を取り上げた位置と、その前に私が再び記帳台あたりに戻って、記帳台に手を置いただけの私の手の位置は、全く交わる点はないということを検証したものを送りました。つまり「私が、最初に記帳台にあった封筒を手にして移動したのち、中から6万6600円もの現金だけを抜き取り、わざわざ元の記帳台に戻って、証拠となる市・県民税の払い込み用紙、つまり、セップを戻した」という、常識では考えられない窃盗の犯行ストーリーは、ありえないことを指摘しました。もちろん、持ったと決めつけた封筒には私の指紋はついていませんでした。

思えば、最初から一貫して、警察は、私を犯人だとするストーリーを作って、犯人だと決めつけ、自白を強要し、検察は、警察の誤りを正すことなく示談を勧めました。信じられない警察や検察の対応でした。そして、広島地裁、広島高裁に至っては、正義と真実を大切にする、神聖で崇高な所だと思っておりましたが、それとは逆に、非常識極まりない、とんでもない事実誤認をしたまま、有罪とされました。私は無実です。

私は、今、警察、検察、広島地裁、広島高裁に、大きな不信感と激しい憤りを感じております。最高裁においては、それを払拭して下さる様な、正義と真実に基づいた、公正なる判断をお願いするばかりです。

私を支援して下さっている仲間が、「煙石博さんの無罪を勝ちとる会」を立ち上げて、街頭行動での訴えや、最高裁の公正な裁判を求める請願署名の活動にも骨を折って下さり、これまでに9500名を超える署名をいただいております。ありがとうございます。私は絶対に6万6600円を盗っておりません。私は無実です。私の事件の経過は、「煙石博さんの無罪を勝ちとる会」のホームページに示しています。是非ご覧下さい。

2017年3月7日 煙石博

・・・・・・・・・・以上、煙石氏の声明文・・・・・・・・・・

さて、いかに警察、検察、裁判官が酷かったかおわかり頂けただろうか。煙石氏が逆転無罪という結果で裁判を終えられたのは良かったとしても、煙石氏を冤罪に貶めた警察官、検察官、裁判官が何の罰も受けず、今ものうのうと普通に暮らしているのは理不尽極まりないというほかない。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している

※事件のこれまでの経緯に関心のある人は、後掲の過去記事もご覧下さい。

◎「冤罪」と評判の広島地方局元アナウンサー窃盗事件(2013年9月20日)
◎広島の元アナウンサー窃盗事件で冤罪判決(2013年12月6日)
◎広島の元アナウンサー窃盗「冤罪」事件の控訴審がスタート(2014年5月30日)
◎広島の元アナ「冤罪」窃盗事件で「公正な裁判を求める」署名が1500筆突破!(2014年6月6日)
◎こんなところにも土砂災害の影響が・・・広島の注目裁判で記者の傍聴取材が激減(2014年9月2日)
◎高まる逆転無罪の期待──上告審も大詰めの広島元アナウンサー冤罪裁判(2015年5月13日)
◎前回五輪の年から冤罪を訴える広島元放送局アナ 最高裁審理が異例の長期化!(2016年8月20日)
◎2017年冤罪予測──飯塚事件、和歌山カレー事件、広島元アナ事件の新争点(2017年1月3日)

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン

福岡市で女子予備校生が同じ予備校に通う少年に刺殺されるというショッキングな事件が起きて、1年が過ぎた。逮捕後に20歳になった元少年は起訴され、裁判員裁判で裁かれることになったが、まだ公判の日程は決まっていない。事件現場を訪ねたところ、元少年の行動に疑問を抱かせる謎が浮かび上がると共に深刻な二次被害の痕跡を目の当たりにした――。

朝日新聞2016年3月12日付

朝日新聞2016年3月26日付

◆謎めいている元少年の人物像

事件は昨年2月27日夜、福岡市西区姪の浜の住宅街の路上で起きた。女性が男に襲われているという110番通報があり、福岡県警西署の署員が駆けつけたところ、予備校生の北川ひかるさん(当時19歳)が血を流して倒れており、病院に搬送されたが、ほどなく死亡が確認された。

一方、北川さんと同じ予備校に通っていた犯人の元少年(当時19歳)は犯行後ほどなくして「知り合いの女性を刺した」と近くの交番に出頭。両手を血だらけにしており、いったん病院に入院させられたが、翌3月11日、北川さんの首などを刃物で刺したとして殺人の容疑で逮捕された。地検は元少年が逮捕後に20歳になったため、家裁に送致せず、精神鑑定を実施したうえで起訴。現在は公判前整理手続きが続いている。

この事件に関しては、成績優秀だった北川さんが事件後に難関の大阪大学法学部に合格していたことが判明して涙を誘った一方、犯人の元少年は人物像が謎めいている。動機一つとっても「彼氏がいないと嘘をつかれた」とか「バカにされたと思った」などと報道の情報は錯綜気味。起訴前に行われた精神鑑定でも一度、鑑定留置が延長されるなど、水面下でドタバタしているような雰囲気が感じられる。

産経新聞2016年6月9日付

◆犯行後、川に飛び込んだそうだが……

私はそんな事件がまもなく発生から一年になりつつあった時期、現場を訪ねてみた。すると、犯人の元少年が犯行時、思った以上に不可解な行動をとっていることがわかった。

事件発生当初の報道では、元少年は北川さんを刺した後、現場近くの川に飛び込み、その後に交番に出頭したと伝えられていた。この情報から元少年について、自殺しようとしたが死に切れず、自首することを選んだかのように思った人は少なくなかったろう。

しかし現場を訪ねたところ、元少年が飛び込んだ川というのは、写真のように船着き場になっている河口付近で、水深も浅そうに見え、飛び込んでも死ねるとは到底思えなかった。元少年が川に飛び込んだ目的が何であれ、合理的な思考ができない異常な精神状態だったのはたしかだろう。起訴前に精神鑑定を施されたのも当然だと思わされた。

元少年が飛び込んだのはこんな場所。これでは死ねない

◆被害者が倒れていた場所は今……

事件発生当時の報道を見ていると、北川さんが元少年に刺され、倒れていた場所には、多くの花が手向けられていた。ところが、その場所を訪ねると、二次被害の跡が見受けられた。花が手向けられていたあたりの民家の外壁に次のような看板が設置されていたのである。

〈この場所は私有地です。ものを置かないで下さい〉

北川さんが倒れていた場所は、写真のように奇しくも祭壇のように使える状態だったから、その死を悲しむ人たちはここに花を手向けていったのだろう。しかし、この部分は看板を出した家の人の私有地で、迷惑したのだと思われる。花を手向けた人たちに悪気はなく、心から北側さんを悼んだのだろうが、結果的に二次被害をつくることになったわけである。私が訪ねた際には花は一切手向けられていなかったが、おそらく二度と花は手向けられないだろう。

元少年は今、自分がしたことをどう思っているのか。私は福岡拘置所に勾留中の元少年に取材依頼の手紙を出し、面会に訪ねたが、案の定、面会を断られた。元少年は動機から何から気になるところが多いので、裁判を傍聴できたら続報をお伝えしたい。

被害者が倒れていた場所への献花は迷惑だったらしい

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

本日発売!『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2002年の大阪市平野区母子殺害事件で、一度は死刑判決を受けながら2012年に逆転無罪判決を勝ち取っていた大阪刑務所の刑務官、森健充さん(59歳・休職中)の第二次控訴審で3月2日、大阪高裁は検察側の控訴を棄却し、無罪判決を支持した。このことはすでに大きく報道されたが、実は見過ごされている重大な問題がある――。

朝日新聞2017年3月2日付

毎日新聞2017年2月27日付

◆乏しかった証拠

大阪市平野区のマンションの一室で住人の主婦(当時28歳)とその長男の1歳児が何者かに殺害されたのは2002年4月のこと。主婦の義理の父だった森さんは殺人の容疑で逮捕され、裁判では第一審で無期懲役、控訴審で死刑を宣告されたが、一貫して無実を訴えていた。そして最高裁が審理を差し戻した2度目の第一審でまさに起死回生の逆転無罪判決を獲得。検察がこれを不服として控訴したが、第二次控訴審で無罪判決が追認されたことにより、逮捕から14年余りの年月を経て、ようやく無罪が確定しそうな見通しだ。

この事件は元々、証拠が乏しく、現場マンションの階段踊り場の灰皿から見つかった森被告のタバコの吸い殻が事実上唯一の物証だった。しかし、その吸い殻は変色の仕方などから事件当日に森被告が吸ったものかは疑問が残り、本来はおよそ有罪の証拠にならないものだった。しかも第二次控訴審では、検察が逆転有罪を期して被害者の着衣などから採取した試料をDNA型鑑定したところ、森さんのDNA型は一切検出されず、逆に身元不明の第三者のDNA型が検出される結果に。このように審理の中では森さん以外の真犯人が存在する可能性まで浮上しており、無罪判決が維持されたのは大方の予想通りだった。

では、見過ごされている重大な問題とは一体何か。それは、森さんが捜査段階に大阪府警から「拷問」のような取調べを受けたと訴えていたことである。

森さんの取調べが行われた平野署

森さんの無罪を追認した大阪高裁

◆頭部にナイロン袋までかぶせられ・・・・・・

事件発生まもない時期から警察に疑われた森さんは、何度も平野署に呼び出されて「任意」で執拗に取り調べられていた。そして事件から約4カ月後の2002年8月には、睡眠薬を飲んで自殺するまで追い込まれ、一命を取りとめたあと、大阪府を相手に500万円の国家賠償を請求する訴訟を起こしている。結果的に森さんは請求が認められずに敗訴したが、この訴訟で森さんが訴えていた暴行被害の内容は実に凄まじかった。

何しろ、取調べを担当した3人の刑事は森さんを大声で怒鳴って自白を強要したり、顔や頭を殴る、下半身を足蹴にするなどの暴行をはたらいたばかりか、森さんの頭部にナイロン袋かぶせ、酸欠で気を失うまで追い込んでいたというのだ。結果、大阪地裁の第一審判決は「本件暴行の事実を認めるに足りる証拠はない」と森さんの主張を退け、森さんは控訴、上告も実らずに敗訴したのだが、本当にそれでよかったのか――。

この事件では、最高裁が審理を第一審に差し戻したのち、もっとも重要な争点だった「タバコの吸い殻」を大阪府警が紛失していたことが判明するなど、警察捜査はあまりにひど過ぎた。森さんが取調べで拷問があったと訴え、国家賠償請求訴訟まで起こしたことはあまり知られていないが、無罪確定が確実な状況になった今だからこそ、捜査の問題も改めてイチから総括すべきではないか。

いずれにしても逮捕から15年、死刑の恐怖に苦しめられながら、不屈の闘志で無罪を勝ちとった森さんがこれからの人生で幸多からんことを願う。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

7日発売『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

「共謀罪」──。なんともおどろおどろしい響きであるが、法務省によれば正式名称は「テロ等準備罪」ということに、今のところなっているようだ。2月28日の京都新聞は1面トップで「共謀罪」の全容が明らかになったと報じ、法案のポイントとして、
・犯罪を実行するために結合している「組織的犯罪集団」が対象
・現場の下見や資金・物品調達などの「準備行為」が要件
・死刑や10年を超える懲役・禁錮を定めた罪で共謀した場合の法定刑は5年以下の懲役・禁錮
を挙げている。また「犯罪実行前に自首した場合は刑を減免する規定を盛り込む」予定だという。要するに「チクれば罪を軽くしてやるよ」ということか。

しかし、それ以前に世間知らずの私は、「テロ」の正確な定義を理解できていない。「戦争」と「テロ」の違いは何か、「ゲリラ」と「テロ」の違いは何か、「集団リンチ」と「テロ」の違いは何か……。

◆法務省刑事局に「テロ」の定義を聞いてみた

そこで法案の作成にあたっている法務省刑事局に電話で聞いてみた。電話口に出たのはやや中京地域の訛りがあるアンドウという若い声の男性だった。

―― 「テロ」の定義や概念について教えてほしいのですが。
アンドウ氏 法務省は現段階で『テロ』の定義を持っていません。

―― え! 国会でこの法案については今法務大臣なども答弁されていると思うのですが。
アンドウ氏 まだ法案の作成段階なので、中身については決まっていません。

―― 新聞に「共謀罪の全容が明らかになった」と報道がありますが、まだ法案の作成段階なのですか?
アンドウ氏 まだ閣議決定をしたわけでもありませんし、法案を提出したわけでもないので……。

―― 閣議決定をしたわけではない、ということは法案の原案が出来上がっているということではないのですか?
アンドウ氏 そうですね。こちらでは詳しくわからないのですけれど。

―― この法案は議員立法ではありませんよね。ということは閣議決定待ちならば、もう提出予定の法案が出来ていないとおかしいのではないですか?
アンドウ氏 そうですね。

―― あなた、さきほどはまだ「作成中」だと言われましたが、間違いですね?
アンドウ氏 そういうことになりますね。

―― もう一度伺いしますが「テロ」の定義とはどのようなものでしょうか? 「テロ特措法」というのは既にあるわけですからその定義を教えて頂きたいのですが。
アンドウ氏 テロ特措法はこちらの管轄ではなく内閣官房の担当なので、そちらにお聞きいただく方がよいかと思います。

―― でも既に「テロ等準備罪」の原案は出来上がっているわけですよね?
アンドウ氏 そうですね。ただ、まだこれから変わる可能性もありますので。

―― 原案段階では国民に内容を開示して頂けないということですか?
アンドウ氏 まだこれから変わり得るものですので……

というわけで、「知らぬ存ぜぬ」の一点張り。でも「共謀罪」の原案がすでに作成されていることくらいは素人にもわかる。アンドウ氏は役職上、知り得なかったか、もしくは知っていても私には教えて頂けなかったかのどちらかであるが、新聞記者は詳細を知っているのだから、ふざけた話である。

しかし、驚いたのは「テロ」について法務省が「定義や概念を持っていない」と堂々と回答したことである。

◆内閣官房にも「テロ」の概念を聞いてみた

「テロ特措法」を管轄する内閣官房に聞いてくれと流されたので仕方なく内閣官房に聞いてみた。代表番号に電話をかけて「テロ特措法」を担当している部署につないでくれと告げると、かなり待たされたあとに、ドスのきいた声の男性が電話に出てきた。

「テロ」の概念を知りたい旨告げると、「それはこちらの担当ではなりませんね」という。「法務省に聞いたら内閣官房の担当だと言われたのでこちらに聞いたのですが」というと「『事態室』の担当でもありませんし、他省庁の担当ではないでしょうか」と回答が帰って来た。内閣官房には「事態室」なる部署が置かれていることを不勉強な私は知らなかったが、これはこれでまた驚いた。

◆「事態室」って何だ?

「事態室」は「周辺事態」=「周辺有事」=「戦争」を想起させる。念のため再度内閣官房に電話をかけて正式名称を尋ねたら「(事態対処・危機管理担当)付室」というそうだ。しかし不思議なことにこの「(事態対処・危機管理担当)付室」は内閣官房の組織図には掲載されていない。

別のページでは説明があるが、やはり怖い部署であることに変わりはないようだ。

役所で頻繁に経験する縦割り行政(あるいはそれをを盾に取った)による、責任転嫁、たらいまわしをされた挙句、予想通り「テロ」の定義や概念を行政機関から教えてもらうことは出来なかった。

これ「自体」が実に恐ろしいことではないか? 定義も概念も曖昧に「テロ」という言葉が使われているが、行政機関によれば「その定義はない」もしくは「どこかほかの省庁」しか知らないのだ。曖昧にして極めて高圧的な殺し文句である「テロ」。「テロ」の語感は決して、緩やかだったり、安穏としていたりはしていない。内容は不確かであるけれどもどこかに「のっぴきならない事件」、や「衝撃」の感覚を含んでいるように私は感じる。だから「テロ防止」といえば、大方の人が理由なく黙って従うのだ。

首都圏で電車やバスに乗れば、1年中「テロ特別警戒中です」のアナウンスが流れている。あれだ。毎日毎日「のっぴきならない」単語を聞かされているとそのうち耳が慣れてしまう。そして不確かな語彙に無感覚に従うようになる。

国自体が明らかにできない「テロ」は妖怪のような言葉で、どんな行為にでも拡大解釈できるだろう。法案の内容を論じる前に体がすくんでしまった。

◎[参考資料]「共謀罪」法案、対象となる法律と罪名
(朝日新聞2017年3月1日付より転載)

犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案の全容が判明した。対象は91の法律で規定した277の罪。政府の分類では、「テロの実行」に関するものはこのうち罪にとどまる。277の罪名は次の通り。

【刑法】内乱等幇助(ほうじょ)▽加重逃走▽被拘禁者奪取▽逃走援助▽騒乱▽現住建造物等放火▽非現住建造物等放火▽建造物等以外放火▽激発物破裂▽現住建造物等浸害▽非現住建造物等浸害▽往来危険▽汽車転覆等▽あへん煙輸入等▽あへん煙吸食器具輸入等▽あへん煙吸食のための場所提供▽水道汚染▽水道毒物等混入▽水道損壊及び閉塞(へいそく)▽通貨偽造及び行使等▽外国通貨偽造及び行使等▽有印公文書偽造等▽有印虚偽公文書作成等▽公正証書原本不実記載等▽偽造公文書行使等▽有印私文書偽造等▽偽造私文書等行使▽私電磁的記録不正作出及び供用▽公電磁的記録不正作出及び供用▽有価証券偽造等▽偽造有価証券行使等▽支払用カード電磁的記録不正作出等▽不正電磁的記録カード所持▽公印偽造及び不正使用等▽偽証▽強制わいせつ▽強姦(ごうかん)▽準強制わいせつ▽準強姦▽墳墓発掘死体損壊等▽収賄▽事前収賄▽第三者供賄▽加重収賄▽事後収賄▽あっせん収賄▽傷害▽未成年者略取及び誘拐▽営利目的等略取及び誘拐▽所在国外移送目的略取及び誘拐▽人身売買▽被略取者等所在国外移送▽営利拐取等幇助目的被拐取者収受▽営利被拐取者収受▽身の代金被拐取者収受等▽電子計算機損壊等業務妨害▽窃盗▽不動産侵奪▽強盗▽事後強盗▽昏酔(こんすい)強盗▽電子計算機使用詐欺▽背任▽準詐欺▽横領▽盗品有償譲受け等
【組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律】組織的な封印等破棄▽組織的な強制執行妨害目的財産損壊等▽組織的な強制執行行為妨害等▽組織的な強制執行関係売却妨害▽組織的な常習賭博▽組織的な賭博場開張等図利▽組織的な殺人▽組織的な逮捕監禁▽組織的な強要▽組織的な身の代金目的略取等▽組織的な信用毀損(きそん)・業務妨害▽組織的な威力業務妨害▽組織的な詐欺▽組織的な恐喝▽組織的な建造物等損壊▽組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等▽不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為▽犯罪収益等隠匿
【爆発物取締罰則】製造・輸入・所持・注文▽幇助のための製造・輸入等▽製造・輸入・所持・注文(第1条の犯罪の目的でないことが証明できないとき)▽爆発物の使用、製造等の犯人の蔵匿等
【外国ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及模造ニ関スル法律】偽造等▽偽造外国流通貨幣等の輸入▽偽造外国流通貨幣等の行使等
【印紙犯罪処罰法】偽造等▽偽造印紙等の使用等
【海底電信線保護万国連合条約罰則】海底電信線の損壊
【労働基準法】強制労働
【職業安定法】暴行等による職業紹介等
【児童福祉法】児童淫行
【郵便法】切手類の偽造等
【金融商品取引法】虚偽有価証券届出書等の提出等▽内部者取引等
【大麻取締法】大麻の栽培等▽大麻の所持等▽大麻の使用等
【船員職業安定法】暴行等による船員職業紹介等
【競馬法】無資格競馬等
【自転車競技法】無資格自転車競走等
【外国為替及び外国貿易法】国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなる無許可取引等▽特定技術提供目的の無許可取引等
【電波法】電気通信業務等の用に供する無線局の無線設備の損壊等
【小型自動車競走法】無資格小型自動車競走等
【文化財保護法】重要文化財の無許可輸出▽重要文化財の損壊等▽史跡名勝天然記念物の滅失等
【地方税法】軽油等の不正製造▽軽油引取税に係る脱税
【商品先物取引法】商品市場における取引等に関する風説の流布等
【道路運送法】自動車道における自動車往来危険▽事業用自動車の転覆等
【投資信託及び投資法人に関する法律】投資主の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【モーターボート競走法】無資格モーターボート競走等
【森林法】保安林の区域内における森林窃盗▽森林窃盗の贓物(ぞうぶつ)の運搬等▽他人の森林への放火
【覚せい剤取締法】覚醒剤の輸入等▽覚醒剤の所持等▽営利目的の覚醒剤の所持等▽覚醒剤の使用等▽営利目的の覚醒剤の使用等▽管理外覚醒剤の施用等
【出入国管理及び難民認定法】在留カード偽造等▽偽造在留カード等所持▽集団密航者を不法入国させる行為等▽営利目的の集団密航者の輸送▽集団密航者の収受等▽営利目的の難民旅行証明書等の不正受交付等▽営利目的の不法入国者等の蔵匿等
【旅券法】旅券等の不正受交付等
【日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法】偽証▽軍用物の損壊等
【麻薬及び向精神薬取締法】ジアセチルモルヒネ等の輸入等▽ジアセチルモルヒネ等の製剤等▽営利目的のジアセチルモルヒネ等の製剤等▽ジアセチルモルヒネ等の施用等▽営利目的のジアセチルモルヒネ等の施用等▽ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等▽営利目的のジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等▽ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の製剤等▽麻薬の施用等▽向精神薬の輸入等▽営利目的の向精神薬の譲渡等
【有線電気通信法】有線電気通信設備の損壊等
【武器等製造法】銃砲の無許可製造▽銃砲弾の無許可製造▽猟銃等の無許可製造
【ガス事業法】ガス工作物の損壊等
【関税法】輸出してはならない貨物の輸出▽輸入してはならない貨物の輸入▽輸入してはならない貨物の保税地域への蔵置等▽偽りにより関税を免れる行為等▽無許可輸出等▽輸出してはならない貨物の運搬等
【あへん法】けしの栽培等▽営利目的のけしの栽培等▽あへんの譲渡し等
【自衛隊法】自衛隊の所有する武器等の損壊等
【出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律】高金利の契約等▽業として行う高金利の契約等▽高保証料▽保証料がある場合の高金利等▽業として行う著しい高金利の脱法行為等
【補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律】不正の手段による補助金等の受交付等
【売春防止法】対償の収受等▽業として行う場所の提供▽売春をさせる業▽資金等の提供
【高速自動車国道法】高速自動車国道の損壊等
【水道法】水道施設の損壊等
【銃砲刀剣類所持等取締法】拳銃等の発射▽拳銃等の輸入▽拳銃等の所持等▽拳銃等の譲渡し等▽営利目的の拳銃等の譲渡し等▽偽りの方法による許可▽拳銃実包の輸入▽拳銃実包の所持▽拳銃実包の譲渡し等▽猟銃の所持等▽拳銃等の輸入に係る資金等の提供
【下水道法】公共下水道の施設の損壊等
【特許法】特許権等の侵害
【実用新案法】実用新案権等の侵害
【意匠法】意匠権等の侵害
【商標法】商標権等の侵害
【道路交通法】不正な信号機の操作等
【医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律】業として行う指定薬物の製造等
【新幹線鉄道における列車運行の安全を妨げる行為の処罰に関する特例法】自動列車制御設備の損壊等
【電気事業法】電気工作物の損壊等
【所得税法】偽りその他不正の行為による所得税の免脱等▽偽りその他不正の行為による所得税の免脱▽所得税の不納付
【法人税法】偽りにより法人税を免れる行為等
【公海に関する条約の実施に伴う海底電線等の損壊行為の処罰に関する法律】海底電線の損壊▽海底パイプライン等の損壊
【著作権法】著作権等の侵害等
【航空機の強取等の処罰に関する法律】航空機の強取等▽航空機の運航阻害
【廃棄物の処理及び清掃に関する法律】無許可廃棄物処理業等
【火炎びんの使用等の処罰に関する法律】火炎びんの使用
【熱供給事業法】熱供給施設の損壊等
【航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律】航空危険▽航行中の航空機を墜落させる行為等▽業務中の航空機の破壊等▽業務中の航空機内への爆発物等の持込み
【人質による強要行為等の処罰に関する法律】人質による強要等▽加重人質強要
【細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律】生物兵器等の使用▽生物剤等の発散▽生物兵器等の製造▽生物兵器等の所持等
【貸金業法】無登録営業等
【労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律】有害業務目的の労働者派遣
【流通食品への毒物の混入等の防止等に関する特別措置法】流通食品への毒物の混入等
【消費税法】偽りにより消費税を免れる行為等
【日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法】特別永住者証明書の偽造等▽偽造特別永住者証明書等の所持
【国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律】薬物犯罪収益等隠匿
【絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律】国内希少野生動植物種の捕獲等
【不正競争防止法】営業秘密侵害等▽不正競争等
【化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律】化学兵器の使用▽毒性物質等の発散▽化学兵器の製造▽化学兵器の所持等▽毒性物質等の製造等
【サリン等による人身被害の防止に関する法律】サリン等の発散▽サリン等の製造等
【保険業法】株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【臓器の移植に関する法律】臓器売買等
【スポーツ振興投票の実施等に関する法律】無資格スポーツ振興投票
【種苗法】育成者権等の侵害
【資産の流動化に関する法律】社員等の権利等の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律】一種病原体等の発散▽一種病原体等の輸入▽一種病原体等の所持等▽二種病原体等の輸入
【対人地雷の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律】対人地雷の製造▽対人地雷の所持
【児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律】児童買春周旋▽児童買春勧誘▽児童ポルノ等の不特定又は多数の者に対する提供等
【民事再生法】詐欺再生▽特定の債権者に対する担保の供与等
【公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律】公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者による資金等を提供させる行為▽公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者以外の者による資金等の提供等
【電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律】不実の署名用電子証明書等を発行させる行為
【会社更生法】詐欺更生▽特定の債権者等に対する担保の供与等
【破産法】詐欺破産▽特定の債権者に対する担保の供与等
【会社法】会社財産を危うくする行為▽虚偽文書行使等▽預合い▽株式の超過発行▽株主等の権利の行使に関する贈収賄▽株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為
【国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律】組織的な犯罪に係る証拠隠滅等▽偽証
【放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律】放射線の発散等▽原子核分裂等装置の製造▽原子核分裂等装置の所持等▽特定核燃料物質の輸出入▽放射性物質等の使用の告知による脅迫▽特定核燃料物質の窃取等の告知による強要
【海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律】海賊行為
【クラスター弾等の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律】クラスター弾等の製造▽クラスター弾等の所持
【平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法】汚染廃棄物等の投棄等

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

ともに思想家で武道家でもある内田樹と鈴木邦男が、己の頭脳と身体で語り尽くした超「対談」待望の第二弾!!『慨世の遠吠え2』

残部僅少『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊)

テレビや新聞で冤罪が話題になる機会が増えているが、全国各地には「知られざる冤罪」がまだまだ数多くある。1月19日、広島高裁松江支部で控訴審の第1回公判があり、即日結審した「米子ラブホテル支配人殺害事件」もその1つだ。被告人の石田美実氏(59)に対する判決は3月27日に宣告されるが、少しでも多くの人に注目して欲しい事件だ。

◆捜査段階から胡散臭かった

事件の舞台は、山陰地方の中心都市である鳥取県米子市。2009年9月29日夜10時過ぎ、同市郊外にあるラブホテル「ぴーかんぱりぱり」の事務所で支配人の男性(当時54)が頭から血を流して倒れているのを客室係の女性が発見。支配人は病院に搬送されたが、頭部を激しく攻撃されていたほか、ヒモのようなもので首を絞められていた。そして一度も意識が戻らないまま、約6年に及ぶ入院生活を送り、2015年9月27日に息を引き取ったのだった。

警察の調べでは、現場の事務所では、金庫の中などの金が事件前より減っており、犯人は支配人の首を絞める際、事務所にあった電話線かLANケーブルを使ったと推定された。警察は支配人が事務所に入った際、金目的で侵入していた犯人に襲われたとみて、捜査を展開。そしてこのホテルで店長をしていた石田さんを逮捕するのだが、それは事件から4年半も経過してからのことだった。

しかも当初の逮捕容疑は、「申込書に虚偽の記載をし、クレジットカードをつくった」という別件の詐欺の容疑。石田さんはその後、支配人に対する殺人未遂の容疑でも逮捕、起訴され、支配人が亡くなった時点で起訴罪名を殺人に変更されるのだが、こうした捜査の経緯を見ただけでも、胡散臭い香りがする事件だと言えるだろう。

現場のホテルの建物。現在は「ぴーかんぱりぱり」とは別のホテルに

◆動機に疑問、証拠も脆弱

第一審の裁判員裁判は昨年6~7月に鳥取地裁で行われたが、案の定、検察官の有罪立証は苦しかった。

まず、動機の問題だ。検察官は石田さんについて、「水道光熱費を滞納していた」とか「消費者金融に180万円の借金があった」と指摘し、石田さんには金目的で事務所に侵入する動機があったような主張した。しかし石田さんが水道光熱費を滞納するのは、奥さんと結婚以来、数十年に渡って繰り返されてきた日常的なことに過ぎなかった。また、消費者金融の借金についても、石田さんは事件当時、約100万円の「過払い」がある状態だったため、「返済は終わった」という認識だったという。そして実際、消費者金融から返済の催促は受けていなかった。

では、物証はどうか。検察官の主張では、事務所の金庫や事務所に通じる出入り口のドアのノブから石田さんの指紋が検出されており、これは犯行時に付着したものだとのことだった。しかし石田さんはこのラブホテルの店長として働いていたのだから、そういうところから石田さんの指紋が検出されても何もおかしくない。物証もゼロに等しい状態だった。

◆第一審判決のわかりにくいストーリー

かくも有罪証拠が乏しい中、石田さんに不利な事実は、
(1)事件の翌日に千円札230枚=23万円をATMから自分の銀行口座に入金していたこと、
(2)事件翌日から車で大阪に行くなどして家を1カ月以上あけ、警察からの事情聴取の呼び出しにも応じなかったこと――だった。

この2点については、いかにも疑わしいように感じられる事実といえるだろう。

しかし(1)については、石田さんは「ホテルの各客室にある自動精算機の釣銭の予備として千円札が必要なので、ホテルの各客室にあるスロットゲーム機から売上金を回収するたびに千円札を自分の1万円札として交換してストックしておいた。それを入金したものだ」と説明しており、この説明を裏づける事実も存在した。石田さんが店長の業務としてスロットゲームの売上金を回収し、ゲーム設置会社に売上金を送金する際、1万円札で送金していたことが銀行の記録に残っていたのだ。これはすなわち、石田さんがスロットマシンから回収した千円札を手元に残し、その代わりに自分の1万円札を送金していた証左である。

また、(2)については、石田さんは元々、長距離トラックの運転手だったために家を長期間あけることが多く、以前にも1カ月間、仕事とは関係なく車上生活をしたことがあった。そういう事実が存在するうえ、石田さんは事件当日、奥さんに浮気がばれて家にいづらい状況になっており、加えて、過去には警察に無実の罪でひどい取り調べを受けた経験もあり、警察の事情聴取に恐怖を感じていたという。このように事実関係を丁寧にみていくと、(2)も有罪の根拠にするのは苦しかった。

それにも関わらず、石田さんは第一審で有罪とされたのだが、第一審判決は石田さんが強盗目的でホテルの事務所に侵入したという検察側の主張も退けている。そのうえで石田さんが何らかの目的で事務所に侵入し、その場にいた支配人と何らかのいさかいが生じて暴行に及んだうえ、事務所の金を奪ったと認定。こうして起訴罪名の強盗殺人を否定し、石田さんに殺人罪と窃盗罪を適用して、懲役18年の判決(求刑は無期懲役)を宣告したのである。

このように判決が曖昧で、わかりにくく犯行のストーリーを認定するのは、冤罪事件ではよくあることだ。さらに事件直後に石田さんと接したこのホテルの従業員たちも第一審の公判では、「石田さんの様子は普通で、何ら普段と変わったところはなかった」と口を揃えていた。石田さんはまぎれもなく無罪を宣告されるべき被告人だった。

なお、最初の逮捕容疑である詐欺事件については、石田さんはガソリンスタンドでクレジットカードへの加入をしつこく勧誘され、勧誘員のノルマに協力するために適当な記載をして申し込みをしただけだった。詐欺事件については、無罪が宣告されている。

石田さんの控訴審が行われている広島高裁松江支部

◆年度内に判決を出したがった裁判長

そんな石田さんの裁判は第一審の終了後、弁護側はもちろん、強盗殺人罪の立証に失敗した検察側も控訴。1月19日にあった控訴審の初公判では、第一審の公判にも証人出廷したホテルの女性従業員の証人尋問と被告人質問が行われ、検察側は「強盗殺人罪を適用し、無期懲役を宣告するのが相当」、弁護側は「違法な第一審判決を破棄し、無罪判決を下すべき」と主張して結審した。そして冒頭で述べたように判決公判は3月27日の予定だが、栂村明剛(つがむら・あきよし)裁判長の判決公判の日時の決め方を見ていると、「年度内に判決を出したい」という思いが窺えた。それはきちんと証拠を吟味したうえで冤罪を見抜いているからなのか、それとも――。

私は公判も傍聴する予定なので、また続報をお伝えしたい。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

東京スポーツ2017年1月26日付

女性ボーカルデュオのPaix2(ぺぺ)が2001年からほぼ無給のボランティアで続けてきたプリズンコンサートが、昨年12月10日の千葉刑務所で400回を達成したという。これは世界的にみても例がなく、すでに幾つものメディアがこの偉業を伝えているが、なんとあの東スポまでもが(東スポ様、失礼!)が1月26日付けの紙面で記事にした。そこで私は、彼女たちの歌を塀の中で聞いた元受刑者としての思いを書いてみたい。

◆慰問公演は娯楽のない受刑者にとって貴重な機会

刑務所では懲役作業がない週末に、様々な人々が慰問に訪れる。歌手はもちろん、劇団やアマチュア楽団、落語、伝統芸能団体など多岐にわたり、月によっては毎週末に予定が組まれていることもある。娯楽がない受刑者にとって、同囚と刑務官以外の人々と接する貴重な機会だ。

Megumiさん

Manamiさん

翌月の慰問予定はその前の月にはプリントに印刷され、ムショ内の食堂等に掲示される。私がいた黒羽刑務所は2008年当時、過剰収容で2300名もの受刑者がいたから、こうした慰問への参加は自主的な申し込み制だった。受刑者はそれぞれ参加したい演目に申し込むが、定員オーバーの場合は、受刑年数が長い者が優先される。シャバから隔離されている年月が長いものへのささやかな配慮というわけだ。

だが逆に、残念ながら不人気の演目もある。毎年来てくれるのは有難いが、あまりにも前衛的すぎて何をやっているのか分からない劇団や、超高齢で全く声が聞こえない演歌歌手などは敬遠されて席が埋まらない。わざわざ慰問に来てくださっているのに無礼千万ではあるが、受刑者側にも好みがあるから仕方がない。でも空席があっては慰問に来てくださる方に失礼だということで、そういう場合は逆に入所年月が浅い者から強制参加させられ、会場を満員にするのだ。

◆古参受刑者ほど一日千秋の思いで待ちわびるぺぺのコンサート

そんな中で、ぺぺのコンサートは間違いなくダントツ1位の人気演目で、毎回申し込みが多すぎて抽選となり、それでも収容しきれずムショによっては午前・午後2回公演という所もあるという。私は入所時、迂闊にもぺぺを知らなかったのだが、同僚が「本間さん、今年もぺぺが来てくれます。これは絶対にオススメですよ!」と興奮気味に語ってくれたのを今でも思い出す。

彼女たちがほぼ1年に一回慰問に来てくれるのを受刑者たちは皆知っており、古参受刑者ほど一日千秋の思いで待ちわびるのだ。さらに、「ぺぺのコンサートの前は懲罰が減る」という伝説がある。これは懲罰を受けると慰問にも参加できなくなるから受刑者同士の喧嘩や諍いが減るというもので、確かに黒羽でもその通りだった。

『逢えたらいいな』の一文を朗読するManamiさん

Megumiさん

◆受刑者たちの心を捉えるMC(語り)の絶妙さ

ではなぜ、彼女たちは「刑務所の女神」と称されるほど人気があるのだろうか。その秘密は、美しいハーモニーもさることながら、受刑者たちの心を捉えるMC(語り)の絶妙さにある。年輪を重ねたことで、受刑者たちに向けたトークが彼らの心をわしづかみにするのだ。

例えば、舞台登場後すぐに、「こんにちは、ぺぺです。今年もここ○○刑務所にお邪魔することが出来ました。さて、私たちのコンサートが初めての人は挙手をお願いします。2回目の人は? 3回目の人は?・・・え、5回目の人もいる? ダメですよ、早く出所しないと!」などと言って笑わせる。

そうかと思えば、受刑者からの手紙を読んだり、出所してからぺぺに送られた感謝の手紙を読んだりして、涙を誘う場面もある。その緩急が絶妙なのだ。私も黒羽刑務所で彼女たちのコンサートを体験したが、一緒に声を出して歌い、手を振り上げ、体を揺らして楽しむなど、他の慰問の演目では考えられないほどの自由さに驚いた。そして、「早く家族や待っている人の元に帰ってくださいね」という優しい語りかけに、そこかしこですすり泣きが聞こえ、涙をぬぐう受刑者がいた。

◆慰問を続けてきた彼女たちに対する官側の信頼と敬意

慰問に訪れる人たちは多いが、ここまで受刑者の心に寄り添い、語りかけを続けてきた存在は稀だ。念のために言っておくが、このコンサート中の「挙手」などもぺぺだけに許されている特別な行為だ。通常、受刑者はコンサート中に手を振りかざしたり、体をゆすったり、声援を送ることは禁止されている。つまりはひたすら手を膝の上に乗せた姿勢で「拝聴」しなければならないのだが、ぺぺは話の仕方も上手く、経験も積んでいるのでムショ側も安心して受刑者たちとの「交流」を許しているという訳だ。これは10年以上に渡って慰問を続けてきた彼女たちに対する、官側の信頼と敬意の表明でもある。

「元気出せよ」を歌い始めると、刑務所内では通常、許されないアクションが起る

罪を犯した受刑者といえども家族がいて、待つ人がいる。だが長く辛いムショ生活で自暴自棄になり、その存在を忘れそうになる者も多い。そうした中で毎年、手弁当でムショに来てくれるぺぺは、自分たちの悩みや苦しみを本当に分かってくれている、と多くの受刑者が感じ、感謝している。ぺぺのお二人は意識していないかも知れないが、実は受刑者たちに人の心の温かさを思い出させ、もう一度社会に戻る勇気を与えるという、非常に重要で難しい役割を担っているのだ。プリズンコンサート400回に心からの感謝と、今後もさらに受刑者たちの心の拠りどころとして、活動を続けていって頂ければとせつに願う。

Manamiさん(左)とMegumiさん(右)


◎[参考動画]Paix2 逢えたらいいな 第二回 東京拘置所矯正展

Paix2(ぺぺ)公式チャンネル

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

Paix2『逢えたらいいな―プリズン・コンサート300回達成への道のり』(特別記念限定版)

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

『NO NUKES voice』第10号本間龍さん連載「原発プロパガンダとは何か?」新潟知事選挙と新潟日報の検証!

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