30年前、1980年代はゲリラの時代だった、と言われても、ポカーンとする者のほうが多いだろう。
ある人々にとっては、マハラジャに象徴されるバブリーな時代だったし、ある人々にとっては、オタク文化全盛の時代だったのだから。
それでも実際に、皇居やアメリカ大使館、迎賓館、成田空港、米軍・自衛隊基地にロケット弾が、しょっちゅう打ち込まれていたのは事実だ。ロケット弾といっても、火炎瓶を黒色火薬で飛ばしたり、金属片を飛ばしたり、様々。どれも、手作りだった。
福島原発事故で放射能汚染され商売にならなくなった、二本松のゴルフ場などが、東京電力に除染を求める仮処分を東京地裁に申し立てた。ところが東電は、原発から飛び散った放射性物質は「無主物」、つまり東電の所有物ではないので除染の責任はない、という主張をした。
一旦その手を離れれば「無主物」だ、という理屈なら、ロケット弾も「無主物」となる。
東京電力にロケット弾を打ち込んでも、東電自身が主張するその論理によって、それは「無主物」とされ、打ち込んだ者は責任を問われない、ということになる。
東電自身が、打ち込んでください、と頼んでいるようなものだ。
かつて、ロケット弾を打ち上げていたのは、中核派、戦旗派、解放派で、武闘三派と呼ばれた。今はどうしているのか。
中核派は今年、相次いで逮捕者を出している。60歳になる中核派の革命家は3月4日、川崎市高津区のパチンコ店で、男性客がパチンコ台から取り出し忘れたプリペイド式のコイン1枚(残高5000円)を盗んだのである。調べに対しては、「答える必要はない」と黙秘を貫いている、という。
3月13日には、立川市のマンション一室にあるアジトが、家宅捜査を受けた。捜査員に体当たりした、63歳の中核派革命家が逮捕された。
どうやら、ロケット弾の用意はなさそうだ。
戦旗派は、アクティオ・ネットワークと名前を変えて、社団法人になっている。
社団法人というから公益性があるのかと思うが、法改正で、公益性のあるのは公益社団法人といい、一般社団法人は公益性がなくともなれるようになった。
武闘派が今や社団法人とは、時の流れを感じさせる。
埼玉県の蕨に2棟のビルを持っていたが、売却し、今は上野のビルの一室を本部としている。
ロケット弾は、社団法人に用はないだろう。
解放派は分裂に分裂を重ね、老革命家が老革命家を包丁で刺すなどの、凄惨な内ゲバが報じられた。
その中の一派は、自らを「ラスト・カゲキハ」と呼び、21世紀になってもロケット弾を飛ばしていたが、それも2008年までだった。
4月24日には、東京・狛江市にある東電関連の研究施設「電力中央研究所」の通用門に火炎瓶が投げつけられたが、この「無主物」は武闘三派とは無関係のようだ。「無主物」であるから、誰とも無関係なのであるが。
議会や法廷、言論、広範な市民の活動によって、脱原発への道は開かれるべきだ。
ただ、東電の主張する「無主物」論理を素直に援用すると、ロケット弾を打ち込んでも誰の罪にもならない、ということになるのは確かだろう。
(FY)