「死にたい言うんやったら自分で死ね」
大阪で起きた通り魔事件について、松井大阪府知事が放った言葉が物議をかもした。「まさに正論」「上っ面だけの発言するより遥かにマシ」という“賛”の声。「公人が言うべき発言ではない」「どんな理由であれ人に『死ね』というのはいかがなものか」「自殺を容認するのはどうなのだろうか」という“否”の声。

大阪・ミナミの繁華街で6月10日に起きた通り魔事件。皆に信頼され愛されていた男女2人が包丁で刺されて死亡した。現行犯逮捕された礒飛京三容疑者(36)は、自殺を思い立ったが死に切れず、誰かを殺せば死刑になると考え、犯行に及んだと供述した。
この事件に対する、松井府知事のコメントは以下の通り。
「死にたい言うんやったら自分で死ね。自分で人を巻き込まずに自己完結してほしいですね。どうしても行政の支援も受けずにこの世からいなくなりたいなら止めようがない」

自殺を考え死刑による死を求めて犯行に及んだ、という容疑者の語る動機を、府知事は簡単に信じてしまっている。
だが、犯行を起こしてから死刑に至るまでは、うんざりするような裁判と退屈な監獄生活が続くということは、愚かな悪人でも分かるだろう。彼の場合は初犯ではないから、おそらく死刑になるだろう。だが、金銭目的ではない2人の殺人では、無期懲役になって死ねない、という可能性だってあるのだ。

彼の目的は自死ではなく、殺人そのものだ。一時でもいいから、自分を中心に世界を回したかったのだ。強盗殺人や保険金殺人などの欲得でもなく、怨恨を晴らすという目的もなく、ただ殺人そのものを目的とする。それは、他者の生命を、己が自由にできるという快感を得たいがためだ。
恐るべき人間だが、世界にはこれまで、そのような殺人者は数多く現れてきた。

自死を求めた犯行だ、などという彼の言葉は、はっきり言って嘘だ。
そう言えば、それがまた物議を醸して、少しでもよけいに、自分を中心に世界を回す快感を味わえると思ったのだ。
松井府知事は、まんまと1人の犯罪者の策にはまったということになる。

彼のような殺人者と、日本で1年間に3万人という自殺者のメンタリティはまるで違う。
自殺者たちは、ひたすらひっそりと、この世から消えていきたいのだ。まさに、人を巻き込まず自己完結した死だ。
松井府知事の言葉は殺人者にはめられただけでなく、年3万人の自殺を容認し、奨励しているということになる。

府知事が犯罪者の心理にうといのはしかたがないとしても、自殺者の問題を少しも真剣に考えた形跡がうかがえないというのは悲しむべきことだ。

(FY)