「東北行こう」というスローガンを見かけるが、青春18きっぷを使って旅をするのも楽しい。青春18きっぷは、18歳未満の少年少女だけでなく、年齢制限なく、誰でも使えるということは、このところけっこう浸透してきた。

1枚で1日有効×5回分で、11500円。1日の間に、JRの普通列車をどこまで乗ってもいい。途中の乗り降り自由。複数の者で使うことも可能だ。例えば5人で1日乗るなら、これ1枚でいい。春夏冬の決められた期間だけ売られる。今だったら発売は8月の末まで、使用は9月の10日まで。

たまに「青春18きっぷ使って3泊4日で北海道に行って、泣きました」という声を聞くが、それでは移動だけですべての日程が消えてしまう。
東京から北海道に行くなら、移動だけで丸5日かかるので、全部で15日間くらいの日程を組むべきだ。

今だったら、被災地近くを目指すのだが、去年も今年も、それだけの余裕がなかった。
鈍行での移動。時間があるときでなければ、できない。
札幌まで行ったのは、一昨年のことだった。
午前7時52分。池袋から電車に乗る。宇都宮から東北本線に乗り換えると、乗客も少なくなり、ぐっと旅の気分になる。福島から、奥羽本線。窓から家が見えなくなる。新庄からは、ワンマン電車となる。夕暮れの光で、雪が青く染まる。
秋田着は午後7時25分。「着いた!」11時間半かかったのだ。かなりの達成感がある。駅から出て歩くと、ほとんど灯りがなく、街は寝静まっている。節電していた時の東京より、ずっと暗い。このくらいで、いつもやっていれば、原発なんかいらないだろう。
居酒屋に入ると、客は私一人。カウンターに陣取り、きりたんぽを食べながら、おばちゃんからじっくり秋田事情を聞く。

翌日、男鹿半島で、なまはげの実演を見、石焼きを食べる。そしてまた翌朝、目が覚めると、電車に乗って北海道を目指す。
目的地は札幌だが、1日では行けない。途中で一泊しなければならないのだ。何しろ北海道は広い。函館から札幌までは、東京から名古屋までと同じくらいある。飛行機で移動していると、こういう距離感は分からない。

時刻表の見間違いと乗り継ぎの失敗で、この日はずいぶん途中下車した。大館、蟹田、木古内を歩く。木古内は津軽海峡を越えて最初の駅。海に向かって鳥居がある。
函館に着いたのは、午後8時すぎ。観光する時間はない。近くの焼鳥屋で腹を満たし、翌朝早く出発する。函館駅の近くの朝市では、生きのいい蟹が、ケースから飛び出して道を歩いていた。

8時間かけて、札幌到着。そこからまた地下鉄を乗り継いで、白石まで行く。泊まるのは、1泊3千4百円のゲストハウスだ。2段ベッドが並ぶドミトリーで眠ることになる。荷物を下ろすと、さっそく洗濯を始めた。
夜は札幌まで出て、ジンギスカンを味わう。宿に帰ると、ラウンジは広くて快適。20代の女性が一人、本を読むふけっている。岩手から来たという彼女。このゲストハウスでバイトしながら、スキーのトレーニングをしているのだという。

帰りは、青森のカプセルホテルで1泊。14時間列車に揺られ。池袋に着いたのは、午後10時だった。
やはり、青春18きっぷでは、充実した旅が味わえる。

(FY)