スターというのは、あらゆる場面で様々な表情を撮られるわけだが、「マグショット」にお目にかかれる機会はそうそうない。マグショットとは、犯罪取り調べの手続きを始めるにあたって、真っ先に撮られる写真のことだ。
ジェームス・ブラウン、デヴィッド・クロスビー、ジェーン・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、アル・パチーノ、キアヌ・リーブス、ミッキー・ローク、O・J・シンプソン、マイク・タイソン、シド・ヴィシャスなど、そうそうたるスター44人の「マグショット」が、『ハリウッド犯罪調書マグショット』(鹿砦社)に収められている。
飲酒運転で郵便ポストに激突、2本の樹木をなぎ倒した、ブレット・バトラーのマグショットは、鼻や口の周りが腫れ上がり、無惨なものだ。しかし彼女はその後、コメディ女優として頭角を現し、ABCテレビの家庭喜劇『がんばれグレースかあさん』で、アルコール依存症を乗り越えながら、3人の幼い子どもを育てる、“元気印のおかあちゃん”を演じた。自分の逮捕経験も、あけすけに話したという。
彼女以外のほとんどは、警察のカメラの前に立っても、スターらしさを失わずに写っている。
強い意志を感じさせる目をパッチリと開き、握った拳を振り上げているジェーン・フォンダ。さすがに反戦運動の闘士と思わせるが、反戦運動で捕まったのではない。
オハイオ州のボウリング・グリーン州立大学に向かうホプキンズ国際空港で、足止めされたフォンダは怒って、警官を蹴ったり税関の官吏を突き落として勾留されてしまう。
留置場には、18歳のバーバラが収容されていた。全米山高帽紳士連合の街頭パレードを妨害したかどで逮捕されたのだ。彼女が政治犯なみの虐待を受けていることを知ったことが、フォンダが女性解放運動の発言者に変貌するきっかけでもあった。
「下品でわいせつな発言による2件の訴因」で逮捕されたのが、ブルースシンガーのジャニス・ジョプリン。今にも歌い出しそうな風貌で写っている。
フロリダ州のカーティス・ニクソン公会堂で、ジャニス・ジョプリンのコンサートは絶頂を迎えようとしていた。ジャニスが「サマータイム」を歌い出すと、聴衆の若者たちは舞台に殺到した。
それに対して警官が「席に戻りなさい!」と言ったのだが、「今イイところなんだからジャマしないでよ」とジャニスは言った。それでも警官は警笛を鳴らし、聴衆に着席を命じる。これに頭を来たジャニスは、「お客をコケにするのはやめろよ、このオマンコ野郎が!」と罵って、逮捕されたのだ。ジャニスらしい、事件だ。
ドアーズのジム・モリソンの逮捕も、ロッカーらしい。ニューヘイブンのコンサートで、コンサート開始前に巡回していた警察官は、シャワー室で愛し合っているカップルを見つけた。男性はジム・モリソンだった。彼が抗議すると、警察は催涙スプレーを吹きかけ、モリソンは楽屋に逃げ戻った。マネージャーが取りなして警察官はしぶしぶと納得したが、コンサートが始まり高揚が高まったところで、モリソンはその一部始終を聴衆に語り始める。警官隊が舞台に突進し、「今日のコンサートはこれで終了!」と宣言して、モリソンを逮捕してしまったのだ。
第2級謀殺で逮捕された、シド・ヴィシャス。強姦の、マイク・タイソン。武装強盗のデイナ・プレイトウ。薬物の所持や、妻への暴行など、様々な罪を犯したスターたちの犯罪を、「マグショット」を眺めながら知るのは、なかなか味わいのあるものだ。
(FY)