2011年から風営法の規制対象になった、出会いカフェ。新しく店を開業することはできないが、それまでにあった店は営業が認められた。つまり、合法となったのだ。
けっこう、これには驚いた。出会いカフェは、全部潰すのではないか、と思っていたからだ。

以前、出会いカフェはよく利用していた。ごく普通の女性たちと話して、何を考えているかを知ることができるからだ。
店によって多少の違いはあるが、出会いカフェの作りはだいたい一緒だ。フロアが男女で別れている。女性は、雑誌を読んだりネットを見たりしてくつろいでいる。ネイルのサービスがある店などもあり、それを受けている。

単に空間的に男女が別れている場合は、女性からも男性が見える。女性からも男性が指名できるのだ。
間にマジックミラーがあって、男性からしか女性が見えないという店もある。

話したい女性がいた場合、店のスタッフにカードを渡すと、女性にそれを見せる。彼女がOKとなったら、ツーショットの席に移動。そこで合意ができれば、店の外に出てデートができるというわけだ。

私の目的は女性と話すことだったが、けっこう女性から援交を持ちかけてくる。
横浜国立大学で、これから大学院に進むという女性がいて、演劇の話などで盛り上がったが、「このまま帰っちゃうんですか?」と言われ、3万円という金額を提示されてビックリした。
大阪でも、美術系の専門学校に通う女子と美術の話をしていたが、「ワリキリせえへんの?」と言われ、とてもそんなタイプには見えなかったので、ビックリした。

援交の温床なのだから潰してしまえばいいと思うのだが、合法化されたというのだから、さらにビックリだ。

今の出会いカフェはどうなっているのか、行ってみた。
するとたまたまその日は、「逆ナンパデー」だった。いつもとは逆に、マジックミラーの内側のブースに男性が入り、女性の指名を待つのだ。なんだ、それは、と思う。こちらはもう、りっぱなオジサンである。指名なんかされるわけがない。しかしここまで来てしまったのだから仕方がない。入店することにする。

中に入ると、男性が15人ほど。外見は皆ごく普通だ。ラフなTシャツやポロシャツ姿だが、どちらかというと地味と言っていいくらいだ。年齢は20代から40代くらい。
満室率、80~90%。よりによって、女性からの指名を待つなんて不利な日に、なんでこの男たちは来たのか? マジックミラー沿いにパソコンの置かれたカウンターがあり、その後ろにテーブル席。白を基調にしたお洒落な作りだが、男ばかりだと、むさくるしい。

どうせ指名なんかされないから、本でも読んで過ごすしかないなと、カウンターの端の席に座る。簡単なプロフィールを書くようにとスタッフが用紙を持ってくる。年齢や職業、今日の目的として「食事」「お茶」「お酒」「カラオケ」「女性と相談」などの項目から選ぶようになっている。
書き終えるか終えないうちに、スタッフが「女性の方から指名がありましたので、こちらに来てください」と声をかけてくる。えっ!? と思いつつも、そそくさとスタッフに付いていく。

二人が並んで座れるだけのトークスペースで、彼女と対面。ほっそりしていて、目は大きく、つんと尖った鼻の形もいい。首元でリボンを結ぶ形になっている、白いブラウス。下はジーンズ。ナチュラルメイクで、知的で清楚な雰囲気。しかし最近は、こういうコが平気で援交を持ちかけてくるので、油断がならない。

「今日はどんな気分で来たの?」と訊くと「お盆で皆遊んでるのに、私は休みもないから、ちょっと気分を晴らしたくて」とのこと。「じゃあご飯でも食べに行く? おなかすいてる?」「ええ、職場から直接来たから、もうおなかぺこぺこ」ということで、外に出る。

あまりにもうまく行きすぎているので思い浮かんだのが、ボッタクリ疑惑。彼女がもし「私の知っている店に行こう」と言ったら、応じてはいけない。その店はボッタクリ店で、彼女はその店のスタッフの1人というパターンだ。しかし彼女はそんなことは言わず、行き先は私に任せてくれる。

居酒屋に入って、乾杯。彼女は池袋にある外国語教室でスタッフとして働いている、とのこと。なにげなく「逆ナンパディって、利用したことあるの?」と訊くと、「ええ何度か。これなら、知り合いにみつかっちゃうってこともないでしょ」とのこと。なるほど。それなら生活圏以外の店に行けばいいようなものだが、彼女の家は都内の埼玉よりとのことで、池袋からバスで帰るという。わざわざ遠回りしたくないなら、合理的な行動パターン。知的な彼女らしい。

「どうして選んでくれたの?」こっ恥ずかしい質問をしてみると、「私、年上のほうがいいんです。今日はお店の人に20歳の男性からいるって言われたんだけど、とても無理って思った。タメとか年下とか私ダメ。年上の人だと余裕を持ってエスコートしてくれるし、いろんなことを知ってるから話してても勉強になるでしょ」と嬉しい答え。やはり女性から指名できるというのは、メリットがあるわけだ。

彼女の出身は札幌。大学を卒業して、しばらく地元で働いていたが、1年半前に東京に出てきて、池袋で働くようになったとのこと。その話と外見から判断すると、24~25歳。私の半分くらいか。国内海外ともに旅をするのが好きで、秋には長い休みが取れるので、イタリアとフランスに行く予定。国内では京都と仙台によく行き、山形に脚を伸ばして、山の中でバンジージャンプをよくするとか。バンジージャンプはかなり好きらしく、群馬にもあるのだと教えてくれる。

私がニカラグアに旅した話をすると、「それってどこですか?」とバッグの中から小さな世界地図帳を取りだして広げる。これこれ、これが出会いカフェの楽しさなのだ。キャバクラが好きだという友人もいるが、私はやはり、普通に自分の生活や夢を持っている女の子と話す方がいい。それが実現できるのが、出会いカフェの良さだったのだが、最近はまるで援交の場になってしまっていて、嘆かわしい。

もしかしたら彼女も援交を持ちかけてくるかと思ったが、最後までそれはなかった。食事するだけでも、5000円程度の「交通費」を求めてくる子も多い。それもなかった。
「今までつきあった男性は、やはり年上だったの?」と訊くと、「つきあうのはなぜか、同世代でちょっと上くらいの人が多いですね。ちょっと前まで同じ職場のアメリカ人とつきあっていて、それはとてもよかった」失恋して寂しいということか。恋愛ではなく、ちょっと話をするには年上がいいという感覚は分かる。

合法化されて、けっこう出会いカフェは健全化されているのだろうか?
それならそれで、けっこうなことだ。

(FY)