「最近は、社会に不満がたまっているのか、いたずらメールが多くてね。相談の3割はいたずらメールだよ」
ネット犯罪SOSのNPOを運営するH氏は語る。
小説家の伏見つかささん(31)に脅迫メールを送りつけたなどとして、警視庁麹町署は8月12日、脅迫容疑で、徳島県阿南市富岡町南向、無職、青井昇 容疑者(32)を逮捕した。同署によると、「小説の中で、好きなキャラクターの扱いがないがしろになっていると思い、腹が立った」と容疑を認めている。
逮捕容疑は昨年11月、公式サイトで公開されていた伏見さんのメールアドレスあてに「死ね詐欺師」「住所を割り出してやる」「後悔させてやる」などと、脅迫するメール10通を送信したこと。
青井容疑者は、伏見さんの首が切断されているように写真を加工した画像を添付するなどしており、計500回以上、同様の脅迫メールを送信したとみられる。
伏見さんは、アニメ調のイラストを多様する若者向けのライトノベルなどを中心に執筆。シリーズ作品の「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」がアニメ化されるなどしていた。
編集者として漫画雑誌を制作、ある漫画家を担当していたときに「なかなか時間が進まずに、物語が膠着している」という内容のお叱りを受けたことがある。ときとして、漫画やアニメは見て楽しんでいる人たちの中では「自分を構築するアイテムのすべて」となってしまう。
下手をすると作者は、思い入れの強い読者や視聴者に殺されかねない。
そういった人たちが、仮に脅迫メールを送ることでストレスを発散することが日常化しているなら、日本の社会はよほど歪んでいる。
こうしてネットで相手を恫喝する連中を、「ネットヤクザ」と呼ぶ。略して「ネクザ」ともいう。
知人の弁護士は言う。
「いまどき、脅迫メールは、内容にもよるが10通以上なら脅迫罪が成り立つよ。具体的に精神障害の診断書でもあったら、30万円くらいふんだくれるかもね」
そういうことか。脅迫メールではなく、私には出会いサイトからの「待ってます」的な引っ掛けメールはよく来るが、これに引っかかって30万円くらいふんだくれないだろうか。
同じ年のヤクザが言う。
「なんで言わんねん。いたずらメールがきてるなら、『迷惑料はなんぼ払うんや』と逆にしばけたやんけ」
やはり、日本社会は歪んでいる。
メールで恫喝する人、それを利用してシノギをする人、金子みすずではないが、「みんなちがってみんな変」だ。
(黒川龍一郎)