「TPPは全物品の関税撤廃を原則とし、サービスや投資の自由化も掲げている。これこそアメリカが仕掛けたトラップで、日本の農業は大打撃を受けるだろうな。もっとも経済界は輸出の拡大に期待するだろうがね」(経済アナリスト)

TPP参加により、要するに日本は海外から安い農作物を大量に買うというトレードが予測できる。野田首相は国内農業を「断固守り抜く」と明言し、規模の拡大を柱にした農業の強化策を打ち出している。それでも反対論が根強いのは、政策の内容が不十分と思われているためだ。
「まったく国民のコンセンサスを得ないままに、交渉参加を議論するとはあきれる。議論前のタイミングで経済界にも根回しをしていない」(民主党関係者)

野田首相はTPP交渉参加の方針について、総選挙の民主党マニフェスト(政権公約)に盛り込む考えを明らかにした。
「TPPについては、賛成している日本維新の会や、みんなの党との連携も期待しているのだろうが、慎重な議員も多い。時間をかけて議論すべきだ」(識者)

「なんでもかんでも自由化がいいという風潮になっている。工業製品なら自由競争で、いい物が勝ち残っていくということでいいかもしれません。だが、農業は前提条件が違いすぎます。日本は国土が小さい上に山間部が多くて耕作地は少ない。ヘリコプターから種を撒くような、アメリカやオーストラリアのような大規模農業に、コストの面でかなうわけがありません」(農協職員)

一方で、こんな声もある。
「外国の農産物が安く食べられるのは、とてもありがたい。日本の農産物は、多かれ少なかれ、放射能を浴びてるでしょ。いちいち産地を確認したり、測定器で測るのもめんどうだし、福島産の米を長野産と偽っていた例もあるから、日本の農産物はなるべく食べたくないんで」(東京都町田市在住・主婦)

消費者のニーズに応えようと、切磋琢磨してきたのは、農業でも同じだ。その一つが、農薬を使わない有機農法だった。手間暇かけて、自然な農作物を作ってきた農家も、東北には多かったが、それも放射能に犯されてしまった。

「日本人になら『食べて応援』も通用するでしょう。でも海外から見れば日本は、世界中に放射能をまき散らした原発事故を反省せず、活断層の上に建つ大飯原発を再稼働させている、無責任な国。応援しようなんて気になるわけがないですよ」(カナダ在住日本人)

TPPに参加すれば、日本の農業が打撃を受けるのは、目に見えている。
それでは、工業のほうではメリットがあるのか。
中国、韓国、台湾の工業製品が今、日本を追い上げている。
「90年代から跋扈した成果主義で、企業は従業員を人間ではなく資源と見なすようになった。そうなれば、雇われているほうだって、たくさん金をくれるほうになびく。優秀な技術者が、アジアの企業に多くヘッドハンティングされていきました。それで粗悪品だったそれらの国の製品が、ここまでの水準になったのです」(電機メーカー技術者)

人間を大事にしなくなったがために、滑り落ちて来た、日本経済。
それが、TPPで変わるのか。
「TPP推進派は、アメリカに付いていればどうにかなるだろうという、ポチの考え。冷戦のあった頃は、日本は防波堤としてアメリカにとって重要な国だったが、今はどうでもいい国。引きずり回されて、利用されるだけです」(国際ジャーナリスト)

自立した国として、日本を導いてくれるリーダーが、現れてほしいが、当面は期待できそうにない。

(KT)