昨年12月16日、野田佳彦首相は東京電力福島第1原発の1~3号機が「冷温停止状態になった」として、事故そのものが収束に至ったと宣言した。

事故直後から、原発はメルトダウンしていない、などとウソをついていた政府。それは事故による混乱のためなどではなかった。
これからもウソをつき続けていくということを、野田総理が高らかに宣言したのだから。

冷温停止とは、壊れていない原子炉で、炉心が安全に安定している状態を指す。
原子炉の燃料炉心がメルトダウンし、圧力容器を溶融貫通して圧力容器の外側の格納容器のコンクリート製の構造物の床を侵食しているという状態で、冷温停止などはあり得ない話だ。

いったい、何が事故の収束なのだろうか。呆れてものが言えない。
政府の出す情報はこれまでも信用できなかったが、これからも信用できない、ということだ。

市民自らが情報を集め、分析し、事態を把握していく。
それを可能とするのが、佐藤雅彦著『まだ、まにあう!』(鹿砦社)である。

佐藤氏は筑波大学在学中に、「電気をつくるために、古くさい風車なり水車を回すーーそれだけのために、危険このうえない原子核の分裂反応を使おう」という原発の発想が、「狂気の沙汰」であることに気付く。
学内で原発問題を考えるサークルを立ち上げるが、原爆製造プロジェクト「マンハッタン計画」を模倣した「研究学園都市」筑波大学の当局とぶつかることになるのは必然だった。
大学を辞めて新聞記者になった佐藤氏だが、それ以来ずっと、真実を突き止め伝えることに徹してきた。

『まだ、まにあう!』の冒頭では、事故直後に、日本政府は隠したが、フランス、ドイツ、オーストリア、ノルウェー、アメリカなどの政府機関が公表した放射性物質の拡散分布の予測図が、インターネット上で見られたことを示している。
市民が自分の手で情報を集めることができる、という心強い実例だ。

野田総理の冷温停止状態宣言に顕著だが、国民は無知であると見下して、政府は平気でデタラメを言ってくる。
それに騙されないために本書では、「放射能」と「放射性物質」の違い、エネルギーとは何か、内部被曝と外部被曝の違い、など基本的なところから、解き明かしている。

そして、放射能地獄となってしまった日本で生きのびる、具体的な手だてを教えてくれる。
同時に、日本が生き続けて行くには原発依存をやめるしかない、という結論に導いてくれるのだ。

(F.Y)