スーパーは当時と違うが、矢野さんは店の前で刺され、倒れていた

 

大阪府警もホームページ上で事件の情報提供を求めている

大阪府茨木市の阪急電鉄南茨木駅と隣接したスーパー「阪急共栄ストアー南茨木店」(当時)の前の歩道で、この店の店員・矢野愼さん(当時33)が血まみれで倒れているのを同僚が見つけたのは2001年5月1日の午前8時過ぎのこと。矢野さんは左胸を刃物で刺されており、病院に搬送されたが、ほどなく死亡が確認された。

目撃証言によると、矢野さんは刺される前、スーパーの2階の階段踊り場で白髪交じりの黒っぽいジャンパーを着た男ともみ合いになっていたという。警察は、男が開店準備中のスーパーに押し入り、金を盗もうとしたが、矢野さんに抵抗されたため、路上に連れ出して刺したとみていると伝えられている。矢野さんは責任感の強い人だったそうだから、強盗から店を守ろうとして生命を奪われたのかもしれない。

目撃者は複数いたようで、犯人の男は「年齢が30歳から50歳くらい」、「身長は165から170センチくらい」、「体格はがっちり型」などと絞り込まれたが、事件は16年経った今も未解決。遺族が私的に懸賞金200万円を用意して犯人検挙につながる情報を募り、大阪府警もホームページで情報提供を呼びかけ続けているが、有力な情報は得られない状態のようだ。

◆変わりゆく現場の様子

私がこの現場を訪ねたのは、2013年の夏のこと。店は事件当時の「阪急共栄ストアー南茨木店」から「阪急オアシス南茨木店」へと変わっており、地元の人たちによると、店の前の歩道も事件当時より拡張されて広くなっているとのことだった。

だが、矢野さんが犯人の男ともみ合っていた2階の階段踊り場はそのまま残されていた。その階段踊り場は南茨木駅と直結しており、これならば事件を目撃した人たちがいるのも納得だ。犯人はおそらく、さほど綿密な計画を立てずに成り行きで事件を起こしたのだろう。

矢野さんが犯人ともみ合っていたとされるスーパー2階の階段踊り場

犯人の逃走経路とされる陸橋

 

 

聞き込みをしてみると、スーパーの女性店員がこんなことを教えてくれた。

「私は当時、この店で働いていなかったんで、刺された人のことは知らないんですが、そこの陸橋のところに地蔵があるらしいですよ」

スーパーの建物の横には、線路の反対側に渡るための陸橋があるのだが、そこに行ってみると、金網で囲まれた陸橋のたもとのところに、たしかに小さな地蔵が設置されていた。矢野さんを悼むためのものだろう。地蔵の前には、水のつがれたグラスが供えられていたが、水は綺麗な状態で、矢野さんの死を悼む人がまめに水をかえていることが窺えた。

◆地蔵の設置場所は犯人の逃走経路

実は目撃証言などによると、犯人の男は矢野さんを刺した後、たもとにこの地蔵が設置された陸橋を通り、線路の反対側の駐輪場の方向に逃げていったとされている。私には、この地蔵は犯人が再びこの現場を通らないか、見つめ続けているようにも思えた。

2010年に刑事訴訟法が改正され、殺人の公訴時効は撤廃された。16年もの年月が過ぎてしまうと、警察としても犯人検挙につながる新たな有力情報を得るのは難しいだろうが、犯人は生きている限り、矢野さんを殺害した罪から決して逃れられることはない。

【参考】大阪府警もホームページ上でこの事件の情報提供を求めている。

陸橋の下に矢野さんを悼むために設置された地蔵

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

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