ミャンマーの高速道路には、サービスエリアが数件しかない。そのかわり、走行途中でお手洗いに行きたい場合は、道路脇に公衆トイレがある。
竹でできた電話ボックスのようなものが、秩序なく草むらに立っている。ドアを開くと、和式トイレらしき設備が備え付けてあるだけだ。もちろん水洗トイレではない。トイレットペーパーや、この国で用を足した後に使用する、トイレ用シャワーも付いていない。
タイ、マレーシア、インド、中国などアジア圏のトイレを数多く見て来たが、ミャンマーの高速道路脇のトイレは、はっきり言って、アジアの中でも、かなり良くない部類に入る。
そして、それさえ見あたらなくて、道路に面した草原の中で用を足す人々も多い。
サービスエリアには、清潔な水洗トイレがある。
それよりサービスエリアで注目すべきは、かなり充実したレストランのサービスだ。ミャンマー料理のほか、中華料理や寿司を提供するところもある。寿司といっても、巻き物が多く、日本の寿司と比べて少々南国風にアレンジされている。アメリカのカリフォルニアロールに近い海苔巻きが多い。
ミャンマーのレストランでは、たいていホールスタッフが多くいるが、サービスエリアもその例外ではない。20代の若い男女スタッフがバイキングコーナーにたくさん並び、客の注文を待つ。サービスエリアの経営者は商売熱心な様子で、大勢のスタッフに向かって、サービスの仕方を懇々と説いている。
今まで商売不熱心なミャンマー人の話を書いてきたが、一方で、これからミャンマーが市場開放することを見込んで、非常に積極的に商売を展開する人もいる。このサービスエリアの経営者は後者で、ミャンマー商業界でも成功者として語られる一人だ。
さて、レンタカーのタイヤがパンクしたため、運転手がサービスエリアの駐車場で修理している間、私はビジネスパートナーのNと、その妻、Pとともにレストランで軽食を取った。
「ミャンマー人は英語がよくできる」などと日本のマスコミは言うけれど、「アップルジュース」と英語で注文したら「パイナップルジュース」が来る。しかしNもPものんびりした性格なので、注文が間違っていると店員に指摘しない。こうした状況だと、いちいち細かくこだわる自分が小さな存在に思えてしまって、結局パイナップルジュースを飲んでよしとする。
「バガンには昼過ぎに到着する」とNは言った。だが、アクシデントはタイヤのパンクだけではなかった。ガソリンが足りなくなったが、なかなかガソリンスタンドがなくて探し回ったり、道路に町名や道路名を示す案内看板がほとんどないため、目的地以外の町に入り込んだり……。結局、到着は夕刻になる。
公衆トイレ、サービスエリア、ガソリンスタンド、道路の看板……日本では当たり前に存在するこうしたサービスが非常に少ないことで、車の旅が非常に難しいものになる。国が発展途上であるとは、文字通り、モノがない状態なのだ。
バガンでは、かつて国賓と軍事政権のトップメンバーしか滞在できなかったホテルに泊まった。ロビーから見渡せるイラワジ河と美しい庭園、豪華絢爛な金箔を施した版画が飾られているロビー、ミャンマー産の高価なダイヤやルビーの装飾品が並ぶ土産物ショップ……。庭園に点在するコテージは、クーラーが15度の室温に設定され、客を待ち受ける。
ここはまさに、ミャンマーの富と権力が一極に集中している場所である。ヤンゴンからバガンまでの道のりで、このホテルのような場所を一つも見なかった。
(続く)
【写真キャプション】
バガンのホテルロビーにて。
(文・写真:深山沙衣子)
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