昨年12月12日、北九州で7人が殺害された事件で、最高裁で下された判決に注目が集まっている。松永太(50)に死刑、内縁の妻である緒方純子(49)に無期懲役が確定したのだ。
松永に死刑は、判決としては不思議はない。
注目に値するのは、緒方純子のほうだ。犠牲者が7人にも及ぶ事件で、実行犯と認められた被告の死刑が回避されるのは極めて異例だ。
事件が起きたのは、1996年から2002年にかけて。
松永と緒方は高校の同窓生で、1982年頃からつきあい始めた。松永には妻子があったが、「婚約確認書」なるものを作って緒方の両親を信用させて、交際を続ける。
詐欺まがいの布団会社を経営していた松永が、最初の犯行に及ぶのが、1996年。それまで松永は、不動産の営業をしている男性から、相手の弱みを握ると徹底的にそれを突くというやり方で、金を搾り取っていた。最後は部屋に監禁して通電リンチを加え、友人からの借金、消費者金融からの借金などをさせて、金をむしり取った。その末に、男性は死に至るのだが、松永は彼の幼い娘を監禁し続ける。
緒方の家は資産家である。松永の金銭欲の矛先は、資産家である緒方の家族に向かう。
松永は家族に殺人をしたことをほのめかし、「純子のせいで殺人や詐欺の片棒をかつがされた」などと緒方が主犯であるかのように言い、家の名誉に関わるなどと言って、一家を次々に監禁状態に置いてしまう。
緒方家の所有の土地を担保に金を借りたり、農協から金を借りさせたりして、金銭をむしり取り、家族6人を次々に死に至らしめたのだ。
それは、家族のお互いに手をかけさせて殺すという、凄惨なものだった。
監禁されていた、徳永の娘が脱走したことで、02年、事件が明るみに出る。小学5年生だった少女は、17歳になっていた。
2005年9月の福岡地裁では、松永、緒方の両名に死刑判決が下された。
07年9月の二審判決は「松永被告の主導の下、追従的に関与しており、極刑はちゅうちょせざるをえない」として緒方は無期懲役に減刑された。
最高裁では、「虐待で正常な判断能力が低下し、指示を拒むのが難しくなっていた。真摯に反省しており、無期懲役が著しく正義に反するとは言えない」とし、死刑を要求していた検察の上告を棄却したのである。
松永は緒方に肉体的暴力を振るだけでなく、言葉巧みに心を操り、マインドコントロールの状態に置いていた。
その意味では彼女は被害者の一人であり、無期懲役でも重すぎる感があるが、死刑を回避したことには、裁判官の見識が伺える。
『女性死刑囚』(鹿砦社)で扱っている埼玉愛犬家殺人事件でも、風間博子は関根元からDVを受けるなどして、マインドコントロール下に置かれていた。
しかも、共犯者の供述で実行犯とされたが、風間は実際には殺害には関わっていないのだ。
風間には死刑が確定しているが、法廷に良識があるのなら、一日も早く再審を開始してほしいと願う。
(F.Y)