広島県の呉市で体を切断されるなどした猫の無残な死骸が公園や河川敷、路上などで見つかる事件が約1年に渡り、延々と発生し続けている。昨年3月に西惣付町で上半身だけの姿になった猫の死骸が見つかったのを皮切りに、同8月に1件、同10月に6件、同11月に2件、同12月に4件、今年1月に2件、同2月に5件……と遂に20件を突破。この間、この連続猫虐殺事件は地元マスコミのみならず、週刊誌やスポーツ紙でも次々に報じられ、全国的に関心を集める事案となっている。
所轄の呉署と広署によると、見つかった猫の死骸の中には、他の動物に襲われた可能性や交通事故に遭った可能性がある死骸もあるそうだが、いずれも死骸の発見場所に大量の血痕はなく、何者かが他の場所で殺害後に運んできているようだという。また、発見者からの通報は午前に集中しているというから、普通に考えれば、犯人は深夜に死骸を遺棄しているのだろう。筆者は死骸の発見場所を自転車で訪ねて回ったが、死骸が捨てられた場所の多くは細い坂道が入り組んだ地帯にあり、土地勘のある人物の犯行とみるのが素直だと思われた。
それにしても、一年近くも犯人が捕まらないのはなぜなのか。「署長が『犯人を何としても捕まえろ!』と号令をかけていて、うちの管内では今もっとも重要な事案という位置づけです」と呉署の捜査関係者が言えば、広署の捜査幹部も「うちも現在、この事案は全署体制で捜査にあたっています」と言う。このように猫の事件とはいえ、警察も決してかるく見ているわけではないようだが、犯人検挙につながる有力な情報が思うように集まっていないという。
筆者が現地を取材したところ、その理由の1つに思えたのが、地元の人たちが意外とこの事件に無関心であることだ。1月にこの事件を取り上げた週刊誌の記事では、「街全体が不気味な緊張感に包まれている」とか、「不安に駆られた住民の間で“中傷合戦”が始まっている」などと書き立てられていたが、筆者が現地を訪ねた際はそんな様子は微塵も窺えず、逆に「その事件なら、もう風化していますよ」(昨年11月に猫の死骸が見つかった小学校跡地の近くに住む女性)という声も聞かれたほど。猫の死骸が見つかった場所のすぐ近くに住みながら、この事件のことを知らない人もいた。警察はチラシを配るなどして市民に情報提供を呼びかけているが、市民の側がこんな感じでは、有力な情報が寄せられないのは仕方ないように思われた。
「猫なら何か知っているかもしれませんが、猫に話は聞けませんから……」と呉署の捜査関係者。警察はパトロールも強化しているそうだが、任意捜査の限界もあるようで、このままでは、今後も被害猫は増え続けるのではないかという気にさせられた。警察はどんな些細な情報でも欲しているそうなので、呉市の人は何か気になることがあれば、気兼ねなく警察に連絡してあげて欲しい。
(片岡健)
写真は、猫の死骸が見つかった和庄公園に張り出された呉警察署(代表0823・29・0110)の情報提供を求めるチラシ