1986年に福井市で女子中学生が殺害された事件の犯人とされ、懲役7年の判決が確定して服役後に再審請求をした前川彰司さんという男性が6日、一度は開いていた再審の扉を閉ざされた。名古屋高裁がこの日、高裁金沢支部が2011年に出した前川さんの再審開始決定について、検察の異議を認めて取り消した。

筆者はこの事件は詳しくないが、報道などによると、有罪の確たる証拠は何もなく、確定判決が有罪認定の拠り所にした知人たちの供述には随分怪しいところがあるという。それにそもそも、前川さんは福井地裁の第一審で無罪判決を受けながら逆転有罪とされた人で、取り消された再審開始決定でも「犯人であると認めるには合理的な疑いが生じている」と言われており、二度も「無罪」という司法判断を受けたに等しい人だ。それがいまだに「殺人犯」のレッテルを貼られていること自体、疑問を感じさせることである。新聞各社は6日の名古屋高裁の決定について、翌7日付けの朝刊で総じて批判的に報じたが、それらの記事はおおむね得心できるものだった。

しかし、問題があるのは、名古屋高裁の決定だけだろうか。前川さんが87年に殺人の容疑で逮捕された当初の新聞報道を振り返ると、そんな疑問も沸いてくる。

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【1】21歳の無職男逮捕 福井の女子中学生殺し 福井署 誘いを断られ凶行 犯行否認 友人と車で逃走(福井新聞1987年3月30日朝刊1面)

【2】逃走車の血痕決め手 目撃者証言に確信捜査本部 1年ぶり、執念の捜査 組員の“爆弾証言”で急転(福井新聞1987年3月30日朝刊18面)

【3】トモちゃん「捕まったよ」 逮捕の前川 中学時代非行へ転落 シンナー常習、凶暴化 母親の静代さん仏前に報告(福井新聞1987年3月30日朝刊19面)

【4】「血の付いた服」見つからず 智子さん殺人事件 前川容疑者の取り調べ本格化(朝日新聞福井版1987年3月31日朝刊21面)

【5】女子中生殺し 執念の捜査実る 車に同型血痕つく 福井署 前川は犯行を否認(毎日新聞福井版1987年3月31日朝刊21面)

【6】シンナー乱用の前川 狂った粗暴な人生 仲間に誘おうと犯行 15歳少女殺し(サンケイ新聞福井版1987年3月31日朝刊18面)

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こうして前川さんの逮捕当初の新聞記事の見出しを並べてみると、朝日新聞の記事は比較的控えめな印象だが、この朝日の記事も本文では、「捜査本部は前川が犯行前後に乗っていた車を昨年末に押収、助手席付近から智子さん(筆者注・被害者)と同じO型の血痕を検出している」と前川さんを犯人と決めつけている。多くの無罪確定事件、再審請求事件と同じように、この福井女子中学生殺害事件でも当初は犯人視報道が一斉に展開されていたわけだ。

一方で、再審段階の新聞記事を見ると、前川さんに対する確定判決の問題を熱心に伝えている印象を受ける記事も少なくない。そもそも、現在この事件を取材している記者の大半は、おそらく25年以上前の前川さん逮捕当初の報道に関与しておらず、何の罪もないだろう。とはいえ、新聞各紙は名古屋高裁の決定を批判するだけでなく、「会社」として前川さん逮捕当初の報道に改めて何か一言あっていいんじゃないかという気がしないでもない。

(片岡健)