今回は私だけじゃなく、社員皆呆れ顔だったのだが、それに気付いているのか、気付かないのか。社長は全く意に介さない。その辺りの無神経さはもはや尊敬に値する。それぐらい図々しく生きたいものだ。
午前中外出していた土方さんが戻ってくると、両社社員を集めて会議になる。全員合わせても十人ちょっとだ。会議室のテーブルの端に、土産のゾウの置物が鼻を振り上げている。コーヒーメーカーぐらいの大きさがあって、仕事机に置くには邪魔だと会議室に置いた。会議室でも邪魔だけど。
さっそく社長が激詰めされる。
「あんた居ない間にな、ソースコードいじらせてもらったわ。納期遅れとんのに、一週間もバカンスって、こっちは契約破棄と見なしとんのや。もう援助も打ち切る。これ以上面倒見られへんわ」
当然そうなるだろうことを、社長は予想しなかったのだろうか。援助打ち切るとまで言われても、相変わらず黙りこんでいる。何を考えているのかわからない。だから社員がフォローしようと思っても、フォローしにくい。実際、何も考えていなかったのだろうと思う。小学生が先生に説教されている時、反省するよりも「はやく終わらないかな」程度にしか考えないのと同じ感覚だろう。
「開発が進まないとこっちも困るんで、緊急体制ということで、業務割当を更新しました。8月も残り10日ぐらいですけど、その間に社長から引継ぎが出来ればと思います」
セントラル社の社員がまとめながら、今後について話す。来るべき時が来たな、結局面倒だけが残るのか。社長が腹立たしいのもあるが、こうなることを予想しつつどうにも出来なかった自分を責める気持ちも湧き上がってくる。
セントラル社は、今までの援助額の返済についてはできる限り相談に乗るとしている。開発の権利も一部イーダに認めるという。借金しか残していないイーダに対しても、まだ寛大な処置を取ってくれる。いきなり全額返済は無理なことはわかっているので、支払える限度を見越してのことだろう。
土方さんはその日夕方には、社員を連れて帰った。飲みにでも行くのだろう。そこでイーダの処遇でも話し合うのだな。残ったイーダ社員は今後について協議する。
私は現在の収支と、セントラル社の借金額、銀行の返済額などを出して、どう遣り繰りするか意見を求める。現状のままでは存続は厳しい。どこか切らなければやっていけない。
(続く)
※プライバシーに配慮し、社名や氏名は実際のものではありません。
(戸次義寛・べっきよしひろ)