出た意見としては、銀行の元本返済を止める、未完成の開発を、機能を縮小して売る、殆ど利益のないサーバーを他社に売却する、事務所を移転してもっと安いところに移るなど。
事務所を借りないで自宅内で就業という案も出た。殆どの業務は自社システム内で運用しているし、極端な話、ネットに繋がりさえすれば仕事は出来る。サーバー群を懇意にしている会社に置かせてもらうか、もしくは社長宅に置いて管理するか。社内会議するときも社長宅かレンタルルームを都度借りる。だんだん実態のない不安定な会社になってしまいそうだが、実際そういう運営をしている会社もある。事務所代が無くなれば会社運営も相当楽になるだろう。それぐらいに追い込まれている。
「社長も引越すべきですね」
社長宅にサーバは置けないかという話の中で、尚坂が言った。社長は全く経営状況に見合わない高級賃貸マンションに住んでいる。家賃はそのまま会社負担なので、一般的な部屋に移るだけでも大分負担は減る。尚坂はさらに無駄な出費の多い社長のカードに限度額を設けることまで提案する。
社長のプライベートにまで手を出すのはどうか、という異論も出たが、現状に合わせれば仕方がない部分でもある。元々社長の出費と会社の出費が公私混同しているのも、良い状態ではない。以前もそこの線引きを土方さんが指摘したが、社長は金銭の管理がまるで出来ない。会社に請求がくることで支出の明細が把握できるほうがいいという結論になった。
そこまで突っ込まれているのに、社長は黙ったままで窓の外をボンヤリ眺めている。経営に関しては以前からタッチしていなかったが、自己費用を見直すということも考えないのだろうか。自分の私生活の改善案まで出されているのに。夕暮れの空を見ながら、心ここにあらずといった様子だ。タイの空でも懐かしんでいるのか。
正直殴りたい衝動に駆られる。いや本当に、殴っておけばよかった。社長としての責任は感じていないのか。10名足らずといえど、今まで付いてきた社員の生活のことを考えはしないのか。普通なら、とっくにこんな会社を見放して他へ行っているだろう。会社を辞めない理由は個々にあるのだが、残っている面々は多少なりと今の会社を再起させようと知恵を絞っているのに。
意見も出尽くした頃に、ようやく社長が一言、発言した。
「この先のこと、何か、考えておきます」
誰も当てにはしなかっただろうが、夜も遅くなったのでその日はひとまず解散となった。
(続く)
※プライバシーに配慮し、社名や氏名は実際のものではありません。
(戸次義継・べっきよしつぐ)