総選挙の公示日を目前に控えたある日、携帯電話をとると、「黒川です。いま新幹線で山口に向かっています」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
今治加計学園獣医学部問題を考える会の黒川敦彦・共同代表である。今年に入ってから、加計学園疑獄を徹底的に追求し、かずかずの証拠資料を収集してきた人物だ。彼を情報源として、大手メディアや野党議員が問題を追及してきた。筆者も黒川氏からの情報をもとに記事を書いた一人である。
彼とその仲間たちの活動によって、安倍政権が解散に追い込まれたといって過言ではない。
電話を受けた数日前に、立候補を決意したことは知っていたが、こうして安倍晋三首相の選挙区である山口4区に向かう旅の途中で電話が入ると実感がわいてくる。キャリーケースひとつ持って、敵陣営に単身乗り込む姿が目に浮かんでくるようだった。
首相の選挙区で無所属新人が立候補するなど大胆すぎる。結果は惨敗だった。しかし、今回彼が立候補したことは全く意味がなかったことだろうか。12日間の選挙運動中に何が見えてきたか。
そもそも、加計学園問題の行方はどうなるのか。11月10日に設置審が認可するよう答申したことを林芳正・文部科学大臣が発表した。そして11月4日には、早々と認可してしまった。一連の疑獄はまったく解消されていないにもかかわらずに。
そこで、筆者が毎月行っている勉強会「草の実アカデミー」の第100回のイベントとして11月18日午後2時20分から、東京文京区の文教シビックセンター「スカイホール」で、黒川氏の基調講演を中心に集会を開催することにした。「森友・加計告発プロジェクト」の全面的な協力を得ての企画である。
演題は、「安倍晋三総理に真っ向勝負を挑んだ黒川敦彦が語る『もり・かけ追及・総選挙総括・今後目指す道』。
さらに、40年近く日本中で選挙ボランティアとして活動してきた斎藤まさし氏による総選挙全般の総括。つづいて、森友・加計告発プロジェクト共同代表の藤田高景氏が、両疑獄事件の告発の現状を語る予定だ。
◆疑惑の解明はイコール安倍政権の終焉
森友学園疑獄、加計学園疑獄で身動きが取れなくなった安倍政権は、憲法53条に基づく野党の臨時国会招集要求を無視したあげく、9月28日の臨時国会冒頭で衆議院を解散した。まさに「もり・かけ隠し解散」だった。
解散直前の状況を整理しよう。
森友学園では、国有地8億円の値引きの根拠とされたゴミはなかったことが判明し、財務省がそのことを分かっていた。そして売却金額を先に1億3000万円程度にすると決め、その金額に合わせてゴミ撤去費用を見積もっていたのである。
さらには、支払いを10年分納にするレールを敷いたのも財務省側だった。これら一連のことが録音されていた音声データに収められており、その一部がテレビで公開される事態になっていた。これだけでも安倍政権は窮地に陥っていた。
一方の加計学園をめぐる状況はどうであったか。
前川喜平・前文部科学事務次官などの発言でもわかるように、行政がゆがめられていたことが根底にある。
建築見積も内容も見ないまま、建設予定地の愛媛県今治市議会は96億円の補助金を供出する決定をした。ところが黒川氏らに内部告発が設計図面を提供したことから、大幅に建築費を水増ししていた疑惑が浮上してきたのである。
建築費や運営費など総経費の半額を補助金で出すというのであるから、建築費水増しによって当然補助金額が高くなるわけであり、補助金詐取疑惑が生じる。加えて、ずさんな設計によってバイオハザードがほぼ100%起きると専門家が指摘する始末だった。
このような状況で、安倍首相が野党の質問に答えられるわけもなく、そのための解散だった。
したがって、普通に選挙をすれば自民党が負けていた可能性が極めて高いが、周知のとおり与党が3分の2の議席を占める圧勝に終わった。
◆自民党を勝たせた野党の分裂の背景は?
安倍政権が窮地に追い込まれたときに起きたのが、民進党の山尾しおり衆院議員の不倫ゴシップだった。その当時、解散総選挙はないのではないかという見立てもあった。しかし、この山尾事件が明るみに出た瞬間に「解散総選挙をやるだろう」と指摘した人物もいた。野党第一党の民進党をガタガタにし、間髪を入れず解散総選挙に打って出ることで、政権の延命を図ろうとの意図がすけて見えたからだ。
つづいて、希望の党の設立による民進党分裂の第二弾。間髪を入れぬ立憲民主党の立ち上げとなった。さらに無所属で出馬した前民進党所属議員もいたから、民進党は4分裂したことになる。
2015年9月の安保関連法制の強行採決以降、野党共闘(民進党・共産党・社民党・自由党)という流れができていた。前原前民進党代表は共産党との共闘に前向けではなかったが、一定の進捗はあったわけで、そのまま選挙をやれば安倍政権への一定の歯止めとなったはずである。
そのような事態を阻止し、もりかけ疑獄を隠し、自民党の敗北を阻止する結果をもたらしたのは、民進党の分裂と希望の党創立だった。誰かがシナリオを描いたのかもしれないが、誰が、いつ、どのようにコトを進めたのかは判明していない。
◆これからどうする、どうなる?
このような状況で、黒川敦彦氏は、単身山口4区に乗り込んだわけだ。選挙期間中の10月16日、加計孝太郎理事長の詐欺の幇助容疑で安倍首相を山口地検に刑事告発もし、消費税ゼロを最大の政策として訴えた稀有な立候補者でもあった。
黒川氏は、選挙後にフェイスブックなどで選挙を振り返ってはいるが、18日の集会は、初めての本格的な総括になるはずである。今後の日本の政治を語るうえでも貴重な集まりになるだろう。
基調講演 安倍晋三総理に真向勝負を挑んだ黒川敦彦が語る
「もり・かけ追及・総選挙総括・今後目指す道」
報告1 今回の総選挙について(斎藤まさし氏、選挙ボランティア)
報告2 森友・加計告発の現状(藤田高景氏、森友・加計告発プロジェクト共同代表)
日時 11月18日(土)14:00開場、14:20開演
場所 文京シビックセンター26階スカイホール 東京都文京区春日1-16-21
交通 東京メトロ後楽園駅・丸ノ内線(4a・5番出口)南北線(5番出口)徒歩1分 都営地下鉄春日駅三田線・大江戸線(文京シビックセンター連絡口)徒歩1分 JR総武線水道橋駅(東口)徒歩9分
資料代 500円
主催 草の実アカデミー
▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)ほか。林克明twitter