送信したメールを読んだ各社はすぐ金の心配をする。当然今月支払えるのか、と言ってくる。昼過ぎよりまたジャンジャン電話が鳴り、対応に腐心する。
「今月のお支払いはどうなりますか?」
なんて聞いてくるのは優しい方で、金が払えなさそうだとわかると、人間というものは豹変してしまうのだ。
「一方的な取引停止は違約金払ってもらうぞ」
「金払わないつもりか? そんなん許されると思うなよ」
「今日から毎日ウチに電話入れろ。随時報告しろ」
つい先日まで良好な関係にあった会社が、急にヤクザみたいな口調になる。
「お前の携帯番号教えろ。担当しているお前に責任があるんだ。お前まで逃げようと思うなよ。絶対払わせるからな」
冗談じゃない。低賃金で働いていた私が会社の借金を肩代わりなんて出来るか。とっさに、携帯サイトのテスト用に使っていた携帯端末の番号を伝えてごまかした。普段はサイレントにしているのだが、数日後に着信履歴を見たら毎日数十件も同じ番号から着信していた。
ウチの会社は社員に携帯を持たせるようなことはしていなかった。堀口などは個人の携帯番号を教えてやり取りしていたが、私は今まで自分の携帯番号は絶対に仕事関係の人には教えなかった。別にこのような事態をを想定していたわけじゃないが、プライベートに仕事を持ち込みたくなかったからだ。
「めちゃくちゃだね」
尚坂も疲れきっている。元々痩せ型の顔だが、頬骨がいつも以上に浮き上がってみえる。社長と長い付き合いの尚坂は、私以上に思うところがあるんじゃないか。そんな話を振ろうとしたらまた電話が鳴る。
「もしもし~こちら人材派遣の○×株式会社です~。弊社は幅広い有能な人材を提供する会社でして、是非人材を紹介したいのですが社長様いらっしゃいますか~?」
間抜けな営業だな、と苦笑いが漏れる。
「社長ですか。我々も探しているところでしてね」
「えっ」
「行方不明なんですよ。代わりに探してくれたら、派遣さん雇ってもいいんですけど。代表取締役を任せられる人材、いませんかね?」
「え、えっと、すみません。弊社はエンジニアやプログラマーに特化しておりまして……」
だったら土方さんに電話すれば一人ぐらい雇ってくれるのでは、と思っているうちに電話は切れていた。普段は鬱陶しい営業電話も、今日は和んでしまうぐらいだ。
(続く)
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(戸次義継・べっきよしつぐ)