次の日からは各取引先へ謝罪ツアーだ。特に長年付き合いのある会社、密に交流のあった会社だけに絞ったものの、1日5、6社も謝罪して回ると心身ともにヘトヘトになる。
ネットを中心に事業を広げると、ウチの様な小さい会社でも北は北海道、南は沖縄まで取引先がある。さすがにそこまでは行かないが(交通費も出ないのだから、自腹で遠くまで行くつもりはない)東京近隣だけにした。それでも平塚から春日部まで行かざるを得ない。どちらも仕事に加え個人的にも大変良くしてくれたからだ。担当者は誰もがガッカリしていたが、戸次さんもこれから大変だね、悪いことばかりは続かないから、なんて逆に慰められもした。
ヤクザまがいの電話をしてくるところには行かない。大体、私個人の責任ではないし、むしろウチの社員も被害者だ。経営者が居なくなった日から、社員は無給で働いているのと同じだ。10万20万の損害で罵詈雑言を浴びせてくるところもあったが、考えてみれば今月、来月も給料が出ないとなると、私個人の損害の方が大きいじゃないか。各社に謝罪する義務はないし、謝ったところで支払いはできない。だから別に行かなくたっていい。
それでも何社か回ろうと思ったのは、最後まで友好的だった取引先へのけじめの意味がある。後は知りません、で投げっぱなしにしたら、会社を投げっぱなしにしていなくなった社長と同じになってしまう。
翌日も東京の何社かを謝罪してまわり、夕方社内で簡単な事務処理をして帰る。事務処理といってもやることなんてもう無いのだが、自分のデスクはきれいにしておきたい。午後6時頃、会社を出るともううす暗い。いつの間にか陽が短くなったな、ちょっと肌寒いな、なんて思いつつ、先のことを考えたらひどく憂鬱になる。毎日謝ってばかりいて、気分が沈む一方だ。
(続く)
※プライバシーに配慮し、社名や氏名は実際のものではありません。
(戸次義継・べっきよしつぐ)