倒産による失業者は特別に早く相談席をまわしてくれる。中畑清に似た失業給付担当者に呼ばれ、手馴れた対応を受ける。
「今ねえ、倒産するところ多いんですよ。中小企業は特に。それでも夜逃げってのはそんなに無いですけど。大変でしょうがお察しします」
社交的な口調で同情してくれる。私は現実逃避気味に考え事をしていた。社長夜逃げ話を漫才のように知人に披露する。暗い顔して話せば暗い話になる。それよりは明るく努めて、聴く相手を楽しませた方がいい。そのためついニヤニヤしてしまった。中畑さんは怪訝な顔をしている。
どうやら離職票が無ければ失業者としても認められない。つまり失業保険も受け取れない。会社は倒産したも同然だが、手続きをしていないから法律上は存続している。社員は実質失業しているが法的には失業者じゃない。「働く会社は無いけれど無職じゃない人、なーんだ?」なんて、なぞなぞに使える。一休さんのトンチじゃないっての。とにかく困る。ニヤニヤしている場合じゃない。といってもどうすればいいんだ。社長は居場所もわからなければ、連絡も無い。
会社に戻ったら、パセフィック社の人から書類を手渡された。読んでみると「受任通知」と書かれている。
「当弁護士は株式会社イーダの代理人として次の通り通知します。(中略)当社は破産手続きの申し立てをすることとなりました。今後一切の権利は当事務所が委任します……」
つまり社長は弁護士を雇い、会社のことを委任して破産申告をする準備をしている。破産して数千万の債権をチャラにするつもりなのだ。
当然その中には、社員の未払い給与も含まれている。もはや期待はしていなかったけれど、放っておけばそのまま無かった事にされるわけだ。腹は立つが、どうすればいいのかわからない。相手は法律のプロの弁護士だ。こちらはド素人。何も出来ないのだろうか。ドラマや映画のように、強力な助っ人も登場しなければ正義感溢れるヒーローも登場しない。
悩むだけ無駄か。なるようにしかならない。その日はビートルズのレット・イット・ビーを聴きながら帰った。
(続く)
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(戸次義継・べっきよしつぐ)