kindleが日本上陸を果たしたのは2012年10月末のことだ。
私はkindle上陸から約7カ月の間に2社と揉めた。実際に言うと、kindle出版の話を持ちかけられたのが1月なので5カ月で2社だ。5カ月で2社というと、私に問題があるのでは? と思われる方もいるかと思う。だが、スピード重視である個人出版業界では決して珍しいことではない。
Kindleという言葉は聞いたことはあるけれどよくわからない。と思っている方もまだ多いのではないだろうか?
私も始めはそう思っている一人だった……。

私と企業との戦いはある一通のメールから始まった。メールの内容はというと、
『本日は但野様が小説家を目指されていることを思い出し、ご連絡差し上げました。
現在、某社と協力をし、kindle版の電子書籍出版を事業として少しずつ動かしております。
収入を見込めるものではありませんが〝自著出版〟になりますので、実績としての活用は可能かと思います。
また、開発・販売にもコストが掛かりますので、相当数が売れないとお手元に収入を得て頂くには至らないと思います。そのためあくまで実績作りという位置づけでお考え下さい』
というものだった。
その他にも、すでに書き溜めているものでも構いません。というような内容も書かれており、メールは比較的丁寧なものだった。
今思えば、kindle出版においての開発とはなんだろう? というメールではあるが、その時の私には全く知識がなかったため不思議には思わなかった。

私が気になったのは内容よりも、このメールを送ってきた芳川氏だった。
芳川氏は過去に一度だけ会ったことのあるライターである。芳川氏はライターの紹介業を行っている。ある掲示板に医療ライター・企業ライター募集と書いていた。連絡をとってみると、面接がしたいということで芳川氏が代表を務めるY.Nコミュニケーションに行くことに。だがそこは事務所ではなくレンタルスペース。数人で借りていて事務所代わりにしているとのこと。そして、芳川氏の見た目はかなり若い。私はその時点で芳川氏が代表を務めるY.Nコミュニケーションに少しの不安を抱いた。
芳川氏は私にライター募集をかけた企業の一覧を書いた紙を見せてきた。そこには、芳川氏が募集をかけていた掲示板と同じ掲示板にて、ライター募集をかけている企業が多く記載されており、中には仕事をしたことがある企業も混ざっていた。
「仕事内容の詳細は外部漏らさないということで、誓約書にサインを頂かないとお話しできません」と言われた。
そう言われても、仕事をした企業の内部情報は知っている。しかも、報酬額も実際に私が仕事をした時より2000円低い。

芳川氏は掲示板で募集している企業に営業をかけて紹介業を行っているのだろうか? 同じ掲示板で募集をかけると、仕事をしたことがある人物が現れる可能性があるとは考えられなかったのだろうか? この方法でこの企業は成り立っているのだろうか? いや、誓約書を書かせる時点で、記事だけ別のライターに書かせ自分の仕事という形にしている可能性もある。実際に名刺の肩書きには企業名の他、編集・ライターという文字もあった。
「あの……ここの企業はすでに仕事したことあるんですが……」
「では、私の方で企業に確認してみます」何を確認するのかわからないが、確認されても企業としてはどうすることもできないだろうと思いつつ、すでに芳川氏と仕事をする気がなくあえて突っ込まずに、早く終わらせて帰ろうという思いが頭をよぎった。
当然、自分で仕事をする方が2000円多くもらえるわけであるし、企業としても小さすぎる。
断りのメールを送ろうと思っていたところ、翌日、面接の結果がメールで届いた。いろいろと書いてあったが、結論だけ言うと不合格であった。
芳川氏としても、すでに働いている私を企業に紹介することはできない。当然の結果だろう。自分から断りのメールを送らずに済んだことで、その時は安堵した。

そんな過去がある芳川氏からの突然のメール。信頼性は感じなかった。しかし、小説としての実績がまるでない私としては悩む気持ちもある。詳細だけでも聞こうと思い芳川氏にメールを送ってみることにした。(続く)

(但野仁・だだのじん)