『興味があるので、詳細を送って下さい』と簡潔なメールを送った。すると『物書きを志すつもりであれば、ビジネスメールの改行ぐらい行って下さい。実に読みにくいです』というメールが返ってきた。私には意味がわからなかった。
送信メールを見てみると改行はきちんとしてある。芳川氏に問い合わせてみると『改行なしのメールが送られてきました』との返事。
システム上の問題なのか理由は定かではないが、これまでは普通に送り合っていたメールを突然改行なしで送るわけがない。
確かに改行なしのメールが送られてくれば、読みにくいのはわかる。ただ、それを『読みにくい』ですと片づけてしまうのは、こちらも良い気分ではない。私よりも芳川氏のメールは簡素であった。もしかしたら、自分のパソコン環境に問題があるとは考えないのだろうか?
『こちらの送信メールでは改行されております』と送ると『こちらでは、但野様のPC環境は分かりかねます』との返事。芳川氏は自分のパソコン環境は問題ないので、そちらの問題ですとでも言いたげだ。やはり、私は芳川氏とは合わない。メールだから冷たく感じるのか、一緒に仕事をしたいと思っている人のメールだとは思えない。そして、kindle出版の話も進んではいない。しかし、そんなことで言い争っている程、暇ではない。芳川氏のプライドが高いのはなんとなくわかってはいたので、もしかすると最初のメールが簡潔だったため気に入らなかったのかもしれない。この件で揉めることに意味はないと『改行の方は申し訳ありませんでした。私の方で確認してみますのでkindleの出版の方の詳細をお願いします』とメールを送った。

すると『私の方に小説を一旦送って下さい。私は但野さまの小説を読んだことがないので内容を拝見したうえでNGを出す可能性があります』というものだった。
今、思えばこの時点で断っておけば良かったのだ。
読んだことのない人物にオファーするのはどうかと思う。読んだことのある人にオファーをすれば良いではないか。一緒に仕事をしていきましょうという気はまるで無さそうだ。全て上から目線のように見えるメール。Y.Nコミュニケーションに信頼性のない私はそう思いながらも、渋々作品を送った。他の人にも既に見せているものだ。多くの人に読んでもらい意見などをもらっている作品であり、今更隠すものでもない。詳細を聞いて私も得する場面があるのなら、互いに美味しいとこ取りでビジネスをすれば良いと思った。向こうが私の小説を利用して儲けるつもりならば、こちらも利用して名前を売ろう。
前回のように断られればそれはそれで良いと思ったため、自信作は送らなかった。kindleという舞台が多くの人に読まれるものかもわからなかったし、芳川氏との仕事は前向きに考えられない。最初のメールとこれまでの芳川氏を考えると私の名前で出したとして、利益を自分達で持ってゆくと考えるのが普通だろう。

小説を送った後の返事は『若干の校正・文字組は必要になりますが問題ありません。よろしければ、一度、まず開発を行う担当の者とお引き合わせをさせて頂きたいと思います。こちらの担当者が、実質的販売も行う形となります』という返事とともに、担当者の名前、メールアドレス、会社名のURLが書かれていた。普通ならば、採用されて喜ぶべき場面も、これまでのやりとりを考えると全く嬉しさは感じられなかった。

(但野仁・ただのじん)

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