元北海道警釧路方面本部長で、退職後の2004年に自分自身も関与した道警の組織ぐるみの裏金問題を告発して注目を浴びた原田宏二さん(75)。現在は「市民の目フォーラム北海道」代表として、警察改革のための活動を全国で展開中だが、このほど新著「警察崩壊 つくられた“正義”の真実」(旬報社/1700円+税)を上梓した。警察を批判するにも改革するにも前提として知っておく必要がある「警察の実態」を可能な限り明らかにしたいと執筆した一冊だ。
重大冤罪の相次ぐ発覚や、連日報じられる警察官の不祥事により、国民の間に渦巻いている警察不信。そんな中、警察組織の内情や捜査の現場を熟知する原田さんは裏金告発で注目を浴びて以来、警察の実態を知らせるための講演、警察相手の国賠訴訟や冤罪被害者の支援、警察に対する苦情の相談にのるなどの活動で、全国各地を飛び回ってきた。そうした活動を通じ、常々感じていたことがあるという。
「警察問題に関心を持っているジャーナリストや警察相手に訴訟をやっている弁護士でも、会って話してみると、警察のことを全然知らないんですね。こういう人たちはもっと警察のことを知っているものだと私は思っていたんですが、案外知らないものなんです」
そこで、そもそも警察とはどんな組織で、どんな問題を抱えているのかという「警察の本当の姿」を伝えるべく執筆したのが本書という。警察の歴史や組織の構造がどうなっているのかという話に始まり、昨今の警察の問題を網羅的に紹介しながら実情を解説。自分自身が長年所属した警察に厳しい批判も加えながら、警察改革のポイントや将来の警察はどうあるべきかということにまで言及している。原稿に警察のことを書く機会がよくある筆者は一読し、資料として有用な本に思えたが、原田さんによると、警察問題に詳しい弁護士からも「これは警察の入門書だ」と言われたのだとか。
「裏金が警察の一番の問題のように言う人もいますが、私に言わせれば、そんなものは警察の問題のごく一部。警察全体にいろんな問題があって、犯罪捜査にも問題があって、裏金はその中から出てきた問題の1つに過ぎません。冤罪もそう。冤罪が起きる原因は一捜査員の判断ミスかというと、そうではない。警察の根本的、組織的な問題が背景にあるから、冤罪は何件も起きているわけです。それは簡単に言うと、コンプライアンスの欠如。『治安維持のためには、多少のことはいいんじゃないか』という風潮が警察組織にあることが、冤罪が起きる背景にあるんです」
警察問題の根本的な解決、改革のためには、そのような問題の本質を知って欲しいという原田さん。本の内容は専門的だが、実際に起きた事件や出来事をもとに話が進められているため、濃い内容のわりに読みやすい。道警の組織的な裏金づくりの実態を詳細に告発した著書もある原田さんは、「警察の本で売れるのは、暴露本。今回は暴露本じゃないんで、売れないでしょう(笑)」と言うが、警察問題に関心がある人、仕事や研究活動などで警察の実態を知る必要がある人にはオススメできる一冊だ。
(片岡健)