芳川氏のメールに書かれていた企業『豊穣出版』のURLにアクセスをすると、編集長・代表取締役という肩書きとともに、榛野輝史という名が出て来た。担当者の名前も榛野輝史だ。小さな出版社なのだろうか? 確かに芳川氏と仕事をするぐらいだから大きな会社ではないだろう。代表で編集長? 一人でやっている会社なのかもしれない。そういった会社も世の中にはたくさんある。電子書籍出版の会社を一人で経営しているという話は聞いたことがないが、ないとは言えない。電子書籍の知識が少なすぎるので、当時はいろいろとわからないことだらけだった。
HPをスクロールしてゆくと、榛野氏の他、編集者の名前が書かれていた。他にも社員が居るのかと思えばEPUB作成、表紙デザイン、当サイト運営全般と書かれている。編集者というより、kindle出版を行うための雑務を行っているという感じではないか。また、その下には編集サポートとして芳川氏の名前があった。芳川氏は別会社の人である。その人を編集サポート者という肩書きで書くということは信用できない。もう一人の編集者も社員じゃないかもしれないな。しかし、その会社に登録している作家は数名出てくる。豊穣出版で仕事をしている作家もいるのか。その人達の本はきちんとAmazonで発売されていた。悩むところである。
そこで、豊穣出版をネットで検索してみる。悪い評判は出て来なかった……だが、良い評判も出ては来なかった。だが、出版された本のプロモーション活動をネット上できちんと行っているのは把握できた。榛野輝史氏の名前で検索すると、Wikipediaが検索結果一覧に出てきた。Wikipediaを全て信用するわけではないが、ついそこから調べ始めてみる。クリックすると榛野氏の名前は経営者として載っていた。Wikipediaを見て気付いたのは、豊穣出版という企業はないということだ。榛野氏は出版社の社長ではなく、IT関連企業、豊穣株式会社の社長だったのである。経歴にはIT関連の受賞歴などが書かれていた。この会社はY.Nコミュニケーションよりも大きそうだな。最近はIT関連企業が電子書籍事業に乗り出しているという話は聞いたことがある。出版社でなかったことはさほど大きな問題ではないのかもしれない。
会社概要を見てみようと豊穣出版のHPに戻り、会社概要に入ってみる。豊穣株式会社は思ったより大きな会社に見えた。Wikipediaに経営者として載っているぐらいだから、怪しい企業でもないのだろう。会社概要に従業員数は書いていないものの、顧問、監査役など、数名の名前が並んでいるだけでなく、主要取引先も有名どころが多い。個人出版事業は、豊穣出版の新規事業らしい様子も見えた。新規事業なら豊穣出版のHPが簡素なのも納得だ。もしかすると、これからちゃんとした編集者も雇うのかもしれない。などと、考えたのがいけなかった。
しかし、念には念をとfacebookにて榛野氏を検索してみると、自分が現在もお世話になっているライターの大先輩が共通の友達として出て来た。あの先輩と交流がある人ならと少し安心してい、それをきっかけとして、榛野氏と連絡をとることを決めた。もし、芳川氏のような人物だったならば断れば良い。
この時はきちんとリサーチしたように思えたのだ。だが、後々、自分のリサーチ不足を後悔する。そして、ネットの信用性も疑うことになってゆく……。
(但野仁・ただのじん)
電子書籍による個人出版はどうなんだ!? 企業と揉めたライター奮戦記 1