「社員各位へ この度はこのような結果になり、残念に思います。自分としては限界まで精神的に追い詰められ、自殺も考えましたがネットで弁護士を探し、相談してこうなりました。会社と個人で自己破産手続きに向けて動いています。今後の社員各位についてはこちらのサイトを参考にしてください。また、どなたか直近の売掛と買掛のリストを作ってもらえるとありがたいです。戸次さんが担当していたので出来ればお願いしたいです」
一体この文章を読んで、私達社員に有益な情報はあっただろうか。また、何か救いになるようなものはあっただろうか。何もない。何もなさ過ぎて、余計に苛立ちが募っただけだ。
まず、自殺を考える人が通帳とサーバーを持って逃げるのか。どう考えても計画的に逃げたとしか思えない状況なのに。「参考にしてください」と書かれている下にURLのリンクが貼ってある。そのサイトを見たら、どこかの法律相談事務所のサイトだった。離職票発行後の失業手続きについて延々と書かれている。離職票が発行できない状況なのに、一体何の役に立てろというのか。さらに、売掛と買掛のリストを作れって、8月で解雇したと言い張っているのにまだ仕事させるのか。しかも私を名指しで。どれだけお人よしだと思われているのだろう。
このメールには謝罪の言葉の一つも書かれていない。判ったことは、社長は会社の人間に謝罪する気持ちがまるで無いこと。適当なリンクを貼って済ませるぐらい、社員の今後はどうでもいいと思っていること。社長が何でこんなメールを送ってきたのか。理由は一つだけ、売掛買掛の書類を回収し忘れたので、どうにか手に入れたい。だからわざわざ私にリストを作れ、と言うためだけにメールを送ってきたのだ。
先月で解雇したと言い張り、今月の労働は認めないという態度を取りつつ、リストを作れと言ってくる。今更誰がそんな仕事をするのか。このメールは社内に居る一通りの人に見せ、皆の失笑を買った。返信する意味もないし、する気もない。
正直、売掛買掛のリストはわざわざ作らなくても、私のPC内にデータとしてある。書類もまとめてあるので、弁護士に送ればすぐ済む話だ。だけど今、社長のためにそこまでする義理は何もない。
この間抜けなメールが社長の最後のメッセージとなった。
(続く)
※プライバシーに配慮し、社名や氏名は実際のものではありません。
(戸次義継・べっきよしつぐ)