昼に会社を出たものの、中途半端に時間が余ったので、渋谷の家電量販店をブラブラする。掃除機の調子が悪いことを思い出す。売り場見てみるか。でも収入の当てがなくなったし、買い物は控えるべきか。
掃除機売り場に自動掃除機なるものが置いてある。丸くて、フライパンの円形部分だけみたいなのが、床中を自動で動き回って掃除するものだ。以前、社長が突然購入して会社の床清掃に使い始めたことがあった。大して広いオフィスでもないのに。値段を見たら8万円と書いてあり、腹が立って店を出る。
最近は家に帰っても気持ちが閉じこもりがちだ。帰る気分になれず、ボンヤリと歩いているうちに宮下公園に入る。昨年だかに改修されて、大分綺麗になっている。以前はホームレスやら、食い詰めていそうなアーティストがパフォーマンスをしていたが、今は静かだ。平日の昼間だからかもしれないけれど。彼らはここを追われてどこへ行ったんだろう。なんて思っていたら、いた。髪も髭も伸ばし放題で、顔が赤茶けた色で汚れているホームレスが、ベンチに座ってパンくずのようなものを撒いている。そのためハトが多数、彼の周りに集まっている。
ホームレスって一日中、ああいうことをして過ごしているのかな。近いうち、私もあの仕事に就くことになるのかな。昼間からハトにエサを撒いて、ゆったり過ごす仕事。優雅な暮らしと思えなくもない。収入はないけれど。
渋谷の街を歩いていても、ちっとも楽しくない。先のことを考えては、どうしたらいいのかと落ち込むばかりだ。学生の頃は、用がなくても渋谷に来ていた。ここに来れば、何か特別なことがあるのではないかと、ワクワクしたものだ。そんなことを感じなくなってしまったのは、いつからだろう。今は、特別なことは無くていい。ごく普通の生活がしたい。金持ちになれるほど稼げなくていい。食うのに困らないぐらいの稼ぎがあって、時に少し嫌なことがあって、時に少し楽しいことがあればいい。
そんなごく当たり前の生活が出来ない人間が、周囲には多い。就職氷河期世代とは、そういうものだ。
(続く)
※プライバシーに配慮し、社名や氏名は実際のものではありません。
(戸次義継・べっきよしつぐ)