極度の疲れとストレスで体に不調が出てくる。実際この次の日より熱が出て、2日ほど寝込むことになる。寝ている間、自分の預金口座の金がゼロになり、会社へ行ったら何もかもがなくなっていて途方に暮れる夢を見た。相当まいっているようだ。
回復した次の日、尚坂と話し合いしようと会ったが、2人で愚痴言い合うばかりだ。不毛だから帰ろうかという時に尚坂の電話が鳴る。弁護士からだ。急に向こうが折れてきて、本日まで働いたことを認めるというものだ。今日解雇通知を送り、受け取る明日が解雇日になることで了承して欲しい、といっているらしい。
少し経って、同じ電話が私のところにもかかってきた。急に態度が変わってこっちの言い分を受け入れてきたのが、不審に思える。まあ、あれだけ怒ったのも無駄ではなかったかな。
後で聞いた話だが、弁護士は他の社員にも同じようなことをして、怒らせていた。尚坂は怒りはしなかったが、一人昼間から酒を飲んでいる時に弁護士から電話が来て、クドクドと説教をしたという。私が怒っただけではなく、それぞれ社員の反応を考慮して、弁護士も方向転換を余儀なくされたのだ。
思えば、別に弁護士個人に怨みはないし、怒ったり文句をいっても仕方がない部分はある。社長に雇われているのだから、社長の言い分を主軸にして、話を進めるのが仕事だ。社長がいい加減なことを言っても、それを尊重しなければならない。ただこっちも社長に直接ものが言えない以上、弁護士に言わないと意思が伝えられない。
未払い給与の請求意思を出す為に、社長と弁護士宛に請求書を発行する。会社の会計周りをやっていた私は、毎月数10通の請求書を発行してきた。社長に向けた請求書が、最後に発行したものとなった。
夕方になり会社を出た。尚坂は飲みに行こうと言ったが、丁重にお断りする。ボンヤリとした足取りで五反田駅へ向う。
どうしてこうなった。ここまでの事態になる前に、軌道修正は出来なかっただろうか。自分の会社が苦労するだけならまだいい。関係した会社全部が被害を被ってしまった。うちを担当した人は減給、降格だってあるだろう。クビだってあり得る。1000万単位の貸付が回収できない銀行担当者は、どんな処分を受けるんだろう。
(続く)
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(戸次義継・べっきよしつぐ)