管直人が、吠えている。参議院選挙が近いこのタイミングで、今さら安倍首相の2年前ののブログを「名誉毀損」だとして提訴したのだ。管元首相は7月16日、国会内で記者会見。東京電力福島第1原発事故をめぐり、安倍晋三首相が「菅総理の海水注入指示はでっち上げ」と題したメールマガジンを配信し現在もネット上で掲載しているのは名誉毀損だとして、安倍首相に対し、該当するメールマガジンの削除と謝罪を求め提訴したことを発表した。
安倍首相のメールマガジンは2011年5月20日付配信。「東電はマニュアル通り淡水が切れた後、海水を注入しようと考えており、実行した。しかし、やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だった」と記載。その上で「海水注入を菅総理の英断とのウソを側近は新聞・テレビにばらまいた」としている。
菅は「内容は全くの虚偽の情報に基づく。私の名誉を著しく傷つける中傷記事だ」と述べた。
以下が、安倍首相のブログの全文だ。
『菅総理の海水注入指示はでっち上げ』
? 最終変更日時 2011年5月20日
福島第一原発問題で菅首相の唯一の英断と言われている「3月12日の海水注入の指示。」が、実は全くのでっち上げである事が明らかになりました。
複数の関係者の証言によると、事実は次の通りです。
12日19時04分に海水注入を開始。
同時に官邸に報告したところ、菅総理が「俺は聞いていない!」と激怒。
官邸から東電への電話で、19時25分海水注入を中断。
実務者、識者の説得で20時20分注入再会。
実際は、東電はマニュアル通り淡水が切れた後、海水を注入しようと考えており、実行した。
しかし、 やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だったのです。
この事実を糊塗する為最初の注入を『試験注入』として、止めてしまった事をごまかし、そしてなんと海水注入を菅総理の英断とのウソを側近は新聞・テレビにばらまいたのです。
これが真実です。
菅総理は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべきです。
また菅は、福島第一原発の吉田昌郎所長が亡くなった際に、7月10日のブログでこう書いている。
吉田所長が亡くなった。福島原発事故の現場の極限状態の中で、事故の拡大を必死で食い止めようと戦った。壮絶な戦死ともいえる。
私が吉田所長に最初に会ったのは事故発生翌日の早朝、福島第一サイトの免震棟でだ。東電本店から官邸に来ていたスタッフに何を聞いても全く要領を得ない中、吉田所長は状況を明確に説明し、ベントの実行を確約してくれた。この男なら信頼できると強く感じた。
吉田所長の活躍がなければ事故はもっと拡大していた可能性が高い。事故発生の翌日の夕刻、東電上層部からの海水注入停止の指示に対し、吉田所長は現場の責任者として、また技術者の立場から注水の継続が必要と判断し、上層部の意向に反して独断で海水注入を継続した。英断だ。
東電のテレビ会議の映像では、3月12日の以下のやりとりが記録されている。
「おまえ、海水注入はどうした?」と官邸に詰めている東電の武黒一郎フェローが訊ねる。
「やっていますよ」と吉田所長が平然と答えると、「えっ、本当か。それ、まずい。とにかく止めろ」と武黒が命令する。
「なんでですか。入れ始めたのに、止められませんよ」と言う吉田所長は、武黒の次の言葉に驚愕する。
「おまえ、うるせえ。官邸が、グジグジ言ってんだよ!」と武黒。
「なに言っているんですか!」と、吉田が怒鳴り返す、すさまじいやりとりが記録されているのだ。
実際の事態の推移は、様々な検証で明らかになっている。
3月12日19時04分、吉田所長の判断で、1号機原子炉内への海水注入が始まった。
そのことを、この時点では、官邸も東電本店も知らない。
官邸では、武黒フェローも交えて、海水注入の検討が始まった。
「海水を入れて再臨界をしないのか?」と菅に問われて、「再臨界の可能性はゼロとはいえない」と答えたのが、当時の原子力安全委員会委員長の斑目春樹である。
これによって、海水注入の判断は先送りされた。
討議が空転する官邸の空気をおもんばかって、吉田所長に海水注入中止を命じたのが、武黒の電話だったのだ。
吉田所長は自己の判断で、この命令を無視し、海水注入を続けた。この時、命令通りに中止していれば、事故の被害はさらに甚大なものになったであろうことは、多くの識者で一致している。
要するに、海水注入に関して、当時の菅総理は何らの意志決定もしていない。
当初の、海水注入は菅の決断だという報道は、事実ではなかった。
だが、海水注入中止を菅が命じた、というのも事実ではない。
安倍首相のブログのその部分の記述を、「虚偽の情報」だと菅が言うのは、その通りだ。
だが、参院選を目前にしたこの時期での提訴には、苦笑を禁じ得ない。
現総理と元総理との対決、と印象づけたいのかもしれないが、どうも「遠吠え」にしか見えないのが正直なところだ。
菅直人は「脱原発」の一点で、党の執行部に批判されながらも、東京選挙区では、民主党から公認を外された大河原雅子候補を応援している。いくら「脱原発」を言っても、もはや民主党の影が見える人物を信じる人々は少ない。同じく東京選挙区で民主党公認となった鈴木寛候補と、少ない票を奪い合って共倒れ、というのが目下の趨勢だ。
だがそれによって、本気の脱原発の山本太郎候補が、当選圏内に迫っている。
そこまで先読みしての、民主党攪乱戦術なのなら、菅氏の脱原発も本物ということになるだろうか。
困った人であるが、憎めない人物だ。
明日の投票に向けて、最後まで民主党の攪乱を精一杯続けてほしい。
(鹿歳丸)