弁護士は約束通りの日付で解雇通知を送ってきた。9月いっぱいの就労が認められた。しかし、問題は続く。就労が認められても結局社長には支払い能力などない。8月と9月の給料は未払いのままとなった。足繁く労働基準監督署に通い相談したが、担当者は
「社長が夜逃げして出てこないのでは、会社が倒産したかどうかの確認が出来ない」
と言うばかり。
弁護士が破産の手続きをしている、といっても、弁護士が情報や書類を集めて実際に手続きに入るには3ヶ月はかかるだろうという話だ。それまではどうしようもない。また、その間に労基署でも実態調査をするので、それまでに手続きが開始されなくても、11月には事実上倒産が認められるらしい。
請求の証拠を残すため、毎月請求書を送り続ける。はっきり言って無駄な行為だ。でも「請求をしているのに支払いがない」という事実が必要になる。今の社長にも会社にも、全く金がないことはよく知っている。払えるはずがない。だが事実上倒産が認められれば、国から未払賃金の立替払をしてもらえる。勿論全額ではない上に、解雇予告手当(突然の解雇に対する手当金)も付かない。立替払では未払金総額の半分程度しか貰えない。それでも仕方がない。支払われる可能性の低い会社に請求を続けるより、半分でも早い段階で立て替えてもらって、すぐ次の仕事先を探さなければならないのだ。
11月になって管財人から電話が来る。破産の申し立てを受けて、倒産の調査と、会社の財産の整理のために裁判所から選ばれる弁護士だ。従業員に会社の財産や債権先、未回収の買掛について調査を始めたとのこと。
その頃にはもはやどうでもよくなっていた。私個人の立替払の申請は労基署で済ませていたし、後はその支払いを待つだけだ。それが支払われれば、もうこのわずらわしい出来事から身を引ける。いい加減次の仕事も見つけないといけない。
だから管財人から債権の量だの、未回収金だのと聞かれても、もういいよと思うばかりだった。いつまでも関わっていると、こっちが前に進めない。手切れのために、与えられる情報は全て一度に与えることにする。家には、何かあったときのためと取っておいた書類の束がある。社長と弁護士が欲しがっていた、売掛買掛の直前の取引記録や取引先リストもある。それを箱に詰め、管財人に全部送りつけた。それで、全ては終わった。
(続く)
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(戸次義継・べっきよしつぐ)