今、考えるとあの女の子たちはあまり余計なことを話さないように口止めされていたようにも思える。
その後「一応、こちらでも原稿を校正させてもらったので見ながら直して下さい」と榛野氏は言い。校正したと言う原稿を返してもらった。だが、返ってきた原稿は誤字のチェックだけの校正であった。誤字のチェックと言っても、間違っている部分に黄色い蛍光マーカーが引かれているだけだ。これはデザイナーだけでなく校正者も居ないな。しかも、校閲をすると言った話はどこへ行ったのだろう?
自分で言うのもおかしいがこの分量で、誤字がこんなに少ないとしたらかなり奇跡的である。100枚以上の原稿の中に誤字は片手で数えられるほどしかない……もう一度チェックするか……他の人を頼むか……他の人を頼むとしたらお金がかかる。友人価格で引き受けてくれる人ばかりに頼るのも悪い。無料とは言うが、イラストレーター、校正、校閲、ここまでいい加減な仕事となるとどこかでお金の負担は出てくるであろう。
その時、榛野氏は「最近までライトノベルって言葉知らなかったんですよ。本をこれまで全く読んだことが無くって」と言った。また、あまりにも油断しすぎだ。彼にとっては何気ない一言かもしれないが、これから仕事をしていくうえでいい加減すぎる。小説を預かってもらう側としては不安しかない。こんな人とこれから付き合っていけるのだろうか?
はっきり言えば書籍、出版に関して豊穣出版は素人集団だ。デザイナーや校正・校閲などと大きなことを言わずに出版代行とだけ言えばいいのに……電子書籍の出版のノウハウを提供しますという方がここまでダメな会社だと思われずに済むと思う。また、出版代行という言い方ならば、相手も期待しないだろう。この調子で電子書籍の自費出版を始めるとしても誰も頼まないだろう。頼んでも判を押す前に逃げてしまうだろう。それに、編集サポートとして名前が載っている芳川氏はどこに行ったのだろう。あれだけ偉そうに語るのだから芳川氏はさぞかし素晴らしい文章を書くのではと思ってはいるが……芳川氏はきっと、名前だけだろう。だとしたらもっと有名なライターにお金を払えば良いのにと思うが、そんなにこの電子書籍事業に投資はしたくないのだろう。と言うようなさまざまなことが榛野氏との会話の合間に感じられた。また「これまで出している方は全員、僕の知り合いなんですよ」というような発言もあった。そうだろうなと呆れながらも聞いていた。
約一時間話をしてオフィスを後にした。話をまとめると自費出版では無かったものの、完全に自費出版ビジネスまでの実験材料のようなものだ。電子書籍ビジネスとはこれからそんなに伸びるものなのだろうか。この頃の私にはよくわからなかった、今の私にもまだわからない。何が実績になるだ……芳川氏に文句の一つも言ってやりたいが、あのプライドの高い男に何を言っても上目線で言い返されるのがオチだ。面倒は避けたい。いろいろと考えるが、判を押してしまった今やるべきことは原稿を直すということだろう。
しかし、全くやる気が起きず、家に帰り別の仕事を行っていると榛野氏からメールが届いた。本日はありがとうございました。と言った内容だったが、今日話したことがきっちりとまとめられていた。これだけ綺麗にまとめるなら「私はこれまで本を読んだこと無い」発言も入れておけば良いのに。こういう部分だけはきっちりしているのである意味、気味
が悪い。このメールのラストに『では!』という文字は無かった。このメールは榛野氏にとって今日、話したことの大事な証拠品となるのだろう。
(但野仁・ただのじん)
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