「本編とは関係ないところで論争が盛り上がっている。実際、嫌煙家の人で、映画を観るのを見送った人もいると聞いています。作品そのものの出来で論争していただきたかったと感じています」(映画ライター)
宮崎駿監督のアニメ映画『風立ちぬ』に喫煙シーンが多いことを、NPO法人「日本禁煙学会」が問題視、スタジオジブリに対し、たばこの描き方に配慮を求める文書を8月14日までに送った。禁煙学会側は「未成年の観客も多く影響も大きい」と指摘、文書はホームページでも公開している。
インターネット上では賛否両論の書き込みが広がっており、学会には「表現の自由」「作品に文句をつけるな」といった苦情が寄せられている。とりわけ禁煙学会の主張に対し、作曲家のすぎやまこういち氏が代表を務める喫煙文化研究会では、8月15日に「映画『風立ちぬ』頑張れ!」、16日に「映画『風立ちぬ』に対する日本禁煙学会のご要望についての見解」と抗議文を立て続けに発表。表現の自由を奪う日本禁煙学会の姿勢に断固反対すると主張している。
喫煙文化研究会ではあくまで「表現の自由」が脅かされたことについての反論であるが、ネット上ではタバコの賛成派・反対派の書き込みも溢れ、特にTwitterでは「日本禁煙学会」で検索すると、現在も分単位で新規の書き込みが入るほど加熱している。
ネット上のアンケートでは、「喫煙シーンがあっても問題がない」とする人は87%を超えている。ただし、モニターとしては男性が8割なので、女性の声が反映されていないが、たばこ産業の「平成24年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の平均喫煙率は32.7%だ。
つまり、自分が喫煙しなくとも、喫煙シーンを見るのはかまわない、という者が多いのだ。
これは、考えてみれば当然だろう。犯罪や悲劇が映画には登場するが、見る者は罪を犯したいわけではなく、悲劇に陥りたいと思っているわけでもない。
喫煙シーンの扱いは、国によって様々だ。アメリカでは喫煙シーンは減らせ、といる。フランスでは減らす必要はないとしている。韓国では、タバコにモザイクをかけるほどナーバスになっている。
戦前、喫煙率は8割を超えていた。タバコなしで、この時代の日常生活を描くことにはリアリティがない。
今後、映画文化を語る上で無視できない論争であるが、作品そのものが置き去りにされ、喫煙シーンの可否の論争ばかりが盛り上がっているのは、少し可哀想な気がする。
(鹿砦丸)