宮崎駿監督について語る本を書いたことがあるので、私は、ある月刊誌から協力を求められた。
映画それ自体の話ではなかった。同監督らスタジオジブリの発行する冊子が、平和憲法を変えてはいけない、という特集を組んだことや、その前から原発に反対を表明していることについて、批判する記事を書くためだという。
この某月刊誌は、商売で右よりの記事を書いて、その筋の政治家らに定期購読をしてもらっているという。
それで、原発に批判的な論調の朝日新聞や岩波書店にも、激しい攻撃をしている。従事している人たちは、商売と割り切っているそうだ。
そのような商売には、協力できなかった。なんという雑誌かは、今は伏せるが、じき発売されるので、内容からわかるはずだ。
このようなスタンスの雑誌は、他にも何誌か、電車や駅で広告をよく見かける。やはり商売なのだろう。
ところで、話題の映画『風立ちぬ』は、堀辰雄の小説にオマージュを捧げた題名らしいが、宮崎駿監督の映画としては異例だ。
これまでは『カリオストロの』、『風の谷の』、『天空の』、『となりの』、『魔女の』、『紅の』、『ものの』、『千と千尋の』、『ハウルの』、『崖の上の』、というように『~の』という題名ばかりだったが、今回は違う。
この映画に喫煙の場面が多いという苦情が出ているが、宮崎作品と喫煙といえば、高校生の時に思い出がある。文化祭の役員をしていて、プログラムの表紙にイラストを入れようということになり、「アニ研」の人に頼んだら、文化祭に行こうとルパン三世を誘うクラリス姫を描いてくれた。
ところが、上手く描けているのに、教師から苦情が出た。ルパンが煙草をくわえているのが駄目だという。
これがクラリスの方だったら問題だろう。映画を観た人なら憶えているだろうが、「ロリコン伯爵」というセリフがあるから、絶対に未成年だ。しかし、吸っているルパンの「おじさま」は絶対に成人だ。
ただ、文化祭は不特定多数の人が出入りし、学校なのに喫煙する者がいては問題になる。大人なのに無神経な人および未成年の不良である。それで、どうしても神経質にならざるを得ない。
結局、学校内全面禁煙の通達を来校者たちに徹底することで、イラストはそのままで通った。すでに大量に印刷してしまったという事情もある。
というわけで、それ自体では目くじらたてることもないけど、背景に色々な事情があって、過敏になってしまうことも、現実である。難しいことだ。
(井上靜)