榛野氏と会っても多くが実りなく無駄な結果に終わる。大半がメールでも済むような気もする。それでも打ち合わせに呼ばれれば行かなくてはならない。それは、仕事を請け負う側だから仕方が無いとこの頃は思っていた。
打ち合わせに行くと早速、原稿が返ってくる。驚く程、真っ赤なのだ。しかし、前回の榛野氏の校正のように誤字に黄色い蛍光マーカーがひいてあるよりはまともな気がする。もちろん校正記号などは使っていないのでプロではないというのはすぐにわかるのだが。
榛野氏は原稿を渡すと同時に「校正というよりも彼女達の個人的な意見が入っている気もするんですよね」と言った。嫌な予感がする。とりあえずと一番上にあった原稿を2~3枚その場で読む。比喩表現であったり、五感をずらして書いていたりと小説だからこそ行っていることに矢印をひき「日本語が間違っている」と書いてあった。もしかしたら理解してもらえないような表現もあるかもしれないが、間違っているつもりもない。最初の2~3枚はそういった指摘がほとんどであった。
榛野氏は「但野さんがわざとやっている部分もあると思うので、そういう場合はそのままでいいですよ」と言った。本をほぼ読んだことのない榛野氏の方が理解ある気がした。わざとと言うと軽いが実際に、意図があって表現を変えている部分もある。この頃は豊穣出版に期待もないので、しょうがない、榛野氏の言う通りそのままにしようと思った。
その日、もう一つ話をしたのは私が榛野氏に紹介した小説家と榛野氏が会ったということだ。実際、ここまでいい加減な対応だと紹介はしなかったのだが、榛野氏と初めて会った時でまだ杜撰な対応とわからないうちに紹介してくれという話を出されていたので間を取り持った。その方とも上手く行きそうだと榛野氏からお礼を言われその日は帰った。
帰り道に榛野氏に紹介した小説家が気になりメールをした。どういう風に進んでいるのかと問うと、まだ契約前の段階だった。紹介した方には後日会った時、校正は自分でしなくてはいけない。デザイナーは研修生がやっている。プロモーション活動はあまりしてもらえない。ということは一応伝えた。その時に儲けはないが無料で出せるということもきちんと言った。榛野氏の態度がいい加減で気に入らないというのは自分だけであり、無料で電子書籍を出せるというだけで魅力的なのではという思いもあったので私的感情は挟まないことにした。実際、その時は書籍を出してもらって良かったという部分もあり、榛野氏を悪くは言わなかった。
その後、校正された文章に全て目を通した。じっくりとチェックするとやはり半分以上は直さなくても良いのではと思う……だが、その中でも的確な部分はあった。細かすぎるチェックの分、些細な矛盾にも気付いてくれるのだ。プロではないので全てをチェックしているとは思えないが、この原稿は返してもらって良かったと思う。これで残りの作品も直す時間が短くなるだろう。正直に言うと、その前の短編3作品ほどを小説好きで書籍に関わる仕事をしてもらっている友人に格安で校正してもらっていたので助かった。
表紙も可愛らし過ぎるが研修生の子たちのおかげでまずまずと言えるものになったし、校正も彼女達のおかげで楽になった。研修生の子達は良くやっていてくれたと思う。
その後、残りの3冊を発売した。ようやく一段落と思ったのだが、問題は発売された後にも残されていた。
(但野仁・ただのじん)
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