『ニューズウイーク』は、その雑誌の特色のとおり、シリアにアメリカが軍事介入するよう露払い役をしてみせたが、後に、軍事介入の口実に対し疑問を投げかける記事も掲載し、バランスをとろうとした。
ところが、一方的にシリアを悪役と決め付け、軍事介入を煽ってばかりいるのが『週刊朝日』だ。それは、「軍事ジャーナリスト」の黒井文太郎による、記事と称したアジビラであり、「自分のシリア人の元妻」をネタにして、根拠ある他の報道に対し否定を試み、持論を断定する滑稽なものである。
「化学兵器攻撃は政府軍によるものであることは間違いないといっていいだろう。子どもを含む一般住民を化学兵器で殺害するなど、世界でも過去最悪の極悪非道な政権というしかない。しかし筆者は当初から、アサド政権は独裁体制を守るためなら、どんな非道なことでも躊躇しない政権だと確信していた。それには個人的な理由があった。私事になるが、じつは筆者の元妻はダマスカス出身のシリア人である」
まず「シリア人元妻」が如何わしい感じだが、その存在はともかく、そんなことを言ったら、例えば英会話のアントン・ウイッキーさんだって、外交官のオスマーン・サンコンさんだって、日本人と結婚して長年居住もしている外人だが、それが日本の政治についてとやかく言ったら、他の見解を否定するほど優越するだろうか。
それに、軍事介入で反乱を助けるべきという黒井の主張は国際法違反だ。そんなことも解からないのだろうか。
しかも、シリア情勢について、「日本の報道と現地には温度差」と黒井は嘘を吐く。だいたい、日本の報道は、シリア政府は悪だという一方的報道ばかりだ。シリアの現地どころか、日本の現実にすら反する前提に基づき「温度差」というのはデタラメもいいところ。
このように、現場に行ったという人の言うことを信用していいのかどうかは、その内容から簡単に判断できる。
「自分が現場に行って直接に見聞きした範囲では、少なくともこういうことが言える」
このように述べる人は、まあ信用して良い。しかし、
「自分は現場に行って直接なにもかも見て知っている。行ってない者は何もわからない」
と述べる人は、信用してはならない。
こんなのは当たり前のことなのだが、これを知らない人がいると業界では思われているらしく、しばしば、マスコミから見え見えの嘘が垂れ流されている。
(井上靜)