こんな祭が、今まであっただろうか?
ステージで喋るのは、4人のオヤジ。くるくると回るスポットライトが止まって、1人を照らす。ほくそ笑んで、男性は起ち上がってマイクの前に立つ。
「シカでした」
集まった2万人近い観客が、ドーンと笑う。
9月の6日から8日までの3日間、北海道・札幌の真駒内セキスイハイムスタジアムで開催された、「水曜どうでしょう祭」である。
3日間の参加者総数は、5万4千人に上った。
『水曜どうでしょう』は、北海道テレビ(HTB)で1996年から放送が始まった旅番組だ。「原付ベトナム縦断1800キロ」「ヨーロッパ20ヵ国完全制覇」「ジャングル・リベンジ」「激闘!西表島」「原付日本列島制覇」など、261本が放送されている。
99年の秋田放送を皮切りに、県外の地方局でも放送され、それは全都道府県に及んだ。
DVDも19本が発売され、累計販売数は300万枚を超えている。
原付バイクが多く登場するのは、低予算だから。ヨーロッパでの旅も、車で国境を越えていく。撮影は、家庭用ビデオカメラだ。
旅をするのは、大泉洋と鈴井貴之。
同行するのは、ディレクターの藤村忠寿、カメラマンの嬉野雅道。この2人は声がかぶったり、画面上に見切れるくらいの登場だが、「藤やん」「うれしー」などと呼ばれ、ファンからは人気だ。祭の会場では、藤やんのお面が売っていた。
祭のステージで主にトークするのは、この4人だ。
番組のおもしろについて、『結局、どうして面白いのか─「水曜どうでしょう」のしくみ』の著者である、九州大学大学院人間環境学研究院の佐々木玲仁准教授が、祭のステージで語った。物語とメタ物語の二重構造だからおもしろい、という解説だ。
それに対して「そんなのは、当たり前なんですよ」と大泉洋がマイクを握った。
キ-局で作る旅番組は、行っておもしろくなかったら困るとの懸念もあり、タレントの事務所からも何をするのかと聞かれるので、旅先での行動があらかじめ決められる。
何が起こるか分からないのが旅なのに、それでは旅ではなくなってしまう。
ほとんど決めないのが、『水曜どうでしょう』の持ち味だ。行き先をサイコロで決めることも多い。
何が起こるか分からないということは、何も起こらないこともある、ということだ。
オーロラを見に行くためにアラスカまで行ったが、天候に恵まれずオーロラが見られなかったこともある。
西表で夜釣りをした時は、ライトをつけると魚が逃げるので、真っ暗な映像が延々と流れた。
それでも、4人の個性で、そのゆるさがおもしろさに繋がっていく。
祭への参加は、まずチケットを取るのが大変だった。最初の発売時は抽選に漏れ、追加発売では、知り合いなどに頼んで多重応募してやっと抽選に当たった。
5万人もが真駒内を目指すのだ。ホテルを取るのも、飛行機のチケットを取るのも、ぎりぎりでなんとかできた。
ものすごい経済効果を生み出しているのだ。
4人の個性の絡み合いから派生したこの現象は、理論では説明できない。
それでも、地方の活性化のヒントにはなるのではないか。
(FY)