昨年12月31日出頭してきたオウム真理教元幹部・平田信を、警視庁の機動隊員がイタズラだと思って門前払いしていたことが、問題になっている。

こういうことは珍しいことではない。この手のイタズラは多いので、たいていはイタズラだと思うようだ。
特に、17年もの間、血眼になって追ってきた被疑者が向こうからやって来たとあっては、「当選しました」というスパムメールと同じで、信じられない、と思うのが人情だろう。

殺人罪などで12年間服役した、故見沢知廉が出頭した時もそうだった。
全国指名手配を受け、神奈川県の知人宅に潜伏していた見沢は、1982年の秋分の日に出頭する。
派出所の警官に、殺人で出頭してきた、と告げるが、警官は真に受けず「ふうん、そうなの」などと受け流していた。
だが見沢は、平田よりは押しが強かった。「あんたじゃ話にならない。上司を呼んでくれ」と怒鳴りつけ、年輩の巡査がやってきて本人だと確認され、やっと逮捕となったのだ。

1978年の成田空港管制塔占拠闘争の首謀者として指名手配された、和多田粂夫の場合は変わっている。
管制塔占拠闘争とは、政府による土地取り上げに抗する農民と連帯して、成田空港の開港を阻もうと、新左翼セクト活動家が空港に突入し、管制機器を破壊し開港を延期させた事件だ。
実行部隊はその場で逮捕され、裁判が始まっていた。
和多田は裁判の傍聴に出かけ、傍聴席から裁判長や検事をさんざん野次り続けた。
それでも気付かれなかったため、「俺が和多田だ」と叫んで、法廷と傍聴席を隔てる柵を乗り越えて、やっと逮捕されたのだ。

シャバとおさらばする逮捕の瞬間は、そのくらい楽しんでもいいのでは、とも思う。
慣れている犯罪者だと、自分から出向きはしない。電話して、指定した場所まで迎えに来てもらうのだ。出頭してくれるというのだから、警察は飛んでくるだろうし、これならイタズラと間違われることもない。

出頭前、オウム事件の情報提供を呼び掛ける警察のフリーダイヤルに電話をしたというから、平田のやり方はそれほど間違ってない。だが、そこで繋がらなかったのなら、警視庁に電話するなり110番するなりすれば、大崎署、警視庁本部、丸の内署と歩き回ることもなかったはずだ。
平田の門前払い問題を受けて、警視庁は「不適切だった点を反省し、指導を徹底したい」と言い、警察庁は「手配犯名乗る者を追い返すな」と全国に指示している。 
しかしこの場合、本人が出頭する気になっているのだから、マスコミを使って「正しい出頭の手引き」を宣伝したほうがいいのではないか。

(F.Y)