CNNで「世界各国で落とした財布が戻ってくるか実験」という記事が載っていた。1位はフィンランドのヘルシンキで、12個中11個が戻ってきたという。最下位のポルトガル・リスボンでは1つしか返ってこないという結果になった。

残念ながらおもてなし都市東京では実験されなかったが、実際東京で財布を落としたら戻ってくるのだろうか。それとなく周囲の人にそんな話をすると「届ける」「ネコババする」という意見より「拾わない」と答える人が多かった。

私自身拾わないで素通りするかもしれない。というのも以前、財布を2度ほど拾ったことがある。1度目は公園のベンチで見つけた。自分ではそんなに悪人ではないと自負しているものの、財布を見るといろんな感情が湧いてくる。すぐにネコババしようとは思わないが、一体いくら入っているんだろう、と気になった。手を出して取ろうとする時には何か後ろめたい気持ちがする。交番へ届けようという気持ちはある。一方でもし大金が入っていたら、ネコババしてしまうのではないか、なんて考える自分もいる。

財布を手に取って中を見ようかと思っていた時に、持ち主らしき人が遠くから走ってきて、有無を言わさず財布をもぎ取った。そして私を強烈に睨みつけて、怒りながら去って行った。何とも嫌な気分だけが残った。

2度目は住宅街の路地裏で、道の真ん中に落ちていた。この時も前述のような複雑な感情が湧いてきた。辺りには誰もいなかったが、また落とし主が拾いに来るんじゃないかとしばし手を出さず見ていた。結局誰も来なかったし、他に通行人もいなかったので拾った。中を見たら1万円札が1枚入っていた。10分も歩けば交番があるので、特に迷うことなくそこへ持って行った。

交番ではどこで拾いましたか、を繰り返し聞かれた。中は見ましたか、も何度か聞かれた。カード類は少々あったが現金は1万円だけでした、と何度も答えた。交番に長く居るのも落ち着かないし、対応するのがだんだん面倒になってきた。もういいですか、と帰ろうとすると住所氏名と連絡先を書くよう、紙を渡された。何かあった時のためにと言われ、頑なに断るのも怪しまれるかと思い、さっさと書いて出た。その後連絡は何も来なかった。

正直なところ、落とした人は困っているだろう、という善意は無いわけではないが、それほど強くない。逆に神様の恵みと思って貰っちゃおうとも思わない。拾ったところを見られてドロボー!と言われたらどうしようとか、誰かのいたずらじゃないかとか、そう思う気持ちの方が強かった。交番に届けても、中見抜いたんじゃないかと疑われたら困るとか、そんなことばかり思っていた。交番で住所氏名を晒すのも嫌な気分だった。

つまり拾って届けるぐらいはやぶさかではないが、面倒に巻き込まれるのが嫌なのだ。どうせ貰っちゃうつもりもないし、俗に言う1割程度のお礼を貰うのも気が引ける。メリットは求めないがデメリットは発生し得る。こう考える人は多そうだ。近年は、路上で子供に声をかけただけで不審者と間違われるなんてニュースもある。それならば迷子を見かけても、素知らぬ顔をした方が無難だということになる。おもてなしをするのも、なかなか大変だ。

(戸次義継)