昨年八月、尖閣諸島の中国領有を主張して、同島に上陸した「保釣(釣魚島防衛)行動委員会」(羅就主席)は、今年「十一月初旬にも中国本土や台湾の活動家らと連携し、抗議船で釣魚島(尖閣諸島の中国名)に上陸を強行する」と述べた。
これは十月十五日に同委が管理する小型船の安全検査をパスさせたことを受けての発言である。
実際に彼らは、香港当局から船の漁業以外の使用や香港水域外への航行は認めないとの通告を受けており、事実上、抗議船としての出航を禁じられている。
元々同組織は、中国共産党に反対する民主化活動家らによって組織されている。
同組織が昨年、尖閣諸島に上陸した際、中華人民共和国の国旗、「五星紅旗」と中華民国の国旗「晴天白日満地紅旗」を掲げていた。
これは中華民国政府を認めない中共政府にとって最大の皮肉であった。
昨年、尖閣諸島に上陸した一人である古思堯は、二〇一一年九月のチベット解放運動で、中共の国旗を燃やしている。
彼は一九八九年の天安門事件をきっかけに反中国共産党運動に身を投じ、香港を拠点に様々な抗議運動をしている人物で、香港における反共活動で、数度の逮捕歴もある。
では、なぜ中国の民主活動家が尖閣諸島の中国領有を主張し、反日運動をするのであろうか?
一九九〇年代、中国は天安門事件の経験から、一気に開放改革の速度を上げた。
経済的に中国が豊かになることによって、中国共産党に対する不満を和らげようとするためであった。
そのために必要だったのは中国の工場のインフラなどに投資する外国企業であった。
そこで中国共産党政府は、日本からの投資を大歓迎した。
日本企業も安い労働力などに目を向け、一九九〇年代後半から多くの日本企業が中国に進出した。今日では中国進出をしていない企業が珍しいくらいになった。
一九八九年の天安門事件以降、西側諸国は中国共産党政府に対して貿易などの制裁措置をとる中、唯一日本のみが中国共産党政府に対して制裁をせずОDAを続け、天皇陛下までも訪中させた。
日本は中国共産党政府に対するスポンサーであり続けた。今日の中国の経済発展は日本なしには考えることができない。
そのような蜜月な関係であった両国を突如襲ったのが、尖閣諸島問題であった。
この問題をきっかけに両国の関係は悪化、日中国交正常化以来最悪の関係となっている。
保釣行動委員会の尖閣諸島上陸は、日中関係の悪化に火を付けた。
そもそも中国国民党、即ち蒋介石が中国大陸を統治していた頃、中国共産党は抗日、反日運動を利用して勢力を拡大し、革命に成功した。
保釣行動委員会はかつての中国共産党の手法を踏襲した。日本と手を結び、金儲けに奔走する中国共産党の米櫃に砂を掛けるためには、日中関係を悪化させることである。領土問題は両国民のナショナリズムに火をつけやすいので、尖閣諸島問題は絶好の材料となる。
そこで彼らはこの問題を利用した。
日中関係が悪化すれば、日本からの投資は冷え込み、中国進出企業も撤退する可能性も高い。
日本企業の進出で著しい利益を得ているのは、中国共産党の幹部のみである。労働者は安い賃金でこき使われるのみである。
抗日運動が起きれば、日系企業で働く労働者たちも立ち上がるであろう。そうなれば、中国経済も一気に失速、バブルが弾ける。
バブルが弾ければ中国国内で大暴動が発生し、中国共産党は倒される。
そう保釣行動委員会の活動家たちは考えたのである。
中国共産党自身、かつて反日、抗日を利用して中国国民党を倒した経験がある。
尖閣問題から本当に民衆の中のナショナリズムに火が付くとコントロールが効かなくなり大混乱が生じる。
そのため国民に対して、中国共産党政府がしっかりと尖閣諸島の領有権を主張していることをアピールする必要がある。従って中国政府の艦船や人民解放軍の無人偵察機などを尖閣諸島付近に飛ばして、国内的にプロパガンダをする必要に迫られた。
それに対して日本政府としては当然黙認するわけにはいかない。
日本政府も尖閣諸島の領有権を主張し続ける必要がある。
そうなると益々、日中関係は悪化の一途を辿らざるを得ないという悪循環が続く。
中共政府としては尖閣諸島問題を早く棚上げにして正常な日中関係に戻したいというのが本音である。
しかし両国の国民感情はもはやそれを許さない。中国経済の発展は翳りを見せ、今日はもはやバブルが弾ける寸前とまで言われている。
今年八月、米ゴールドマン・サックスは、バブル崩壊などの危機が起きれば、「影の銀行(シャドーバンキング)」を含む金融部門の貸し倒れが最悪で十八兆六千億元(約二九五兆円)に達するとの試算を発表している。
尖閣諸島問題で悪化する日中関係が引き金となって、中国のバブルが弾ける可能性も極めて高い。
中国共産党政府は、尖閣諸島問題が大きくなればなるほど、まったく身動きが取れなくなり、その最後は雪隠詰め王手となる。
まさに中国共産党政府は、尖閣諸島問題など起きて欲しくないというのが本音であろう。
(内田満 /うちだみつる)