30歳も半ばになると、案の定周囲からやたら結婚結婚とせかされるようになった。今年弟が亡くなったこともあって、母親からはたまにくるメールに必ず結婚の催促が書き添えられる。私より年長者で既婚の「人生の先輩」達は事ある毎に結婚の大切さを説いてくる。同年代の知人は、結婚すると急に結婚することのメリットを語るようになる。まるで結婚教という宗教に勧誘されているかのようだ。
若い頃は私も夢見たこともある。一人暮らししていると突然ウェディングドレスの女性が飛び込んできて「匿ってください」などと言われ、いつの間にか同居するようになり…… なんて展開があるんじゃないかとも思ったが、残念ながら今のところそんな女性は訪ねてこない。ドラマのように結婚した時点でエンディングなら幸せかもしれないが、結婚を勧めてくる人の大半は伴侶の文句ばかり言っている。結婚させたいのか、させたくないのか。
晩婚化というのは国にとっても民間企業にとっても問題なようで、厚生労働省の子ども・子育て白書や国立社会保障・人口問題研究所、あるいは民間の調査、メディアではしょっちゅう取り上げている。一方、結婚しない、できない理由をみると、国や企業そのものが原因を作っているとも言える。例えば、どの調査を見ても上位に挙がっているのが金の問題。「家族を養うほどの収入がない」は明治安田生活福祉研究所の調査で男性1位となっており、社会保障・人口問題研究所の調査では、結婚の障害になるものとして「結婚資金」が1位挙げられている。はっきり言えば、収入の少ない非正規で働いている、正規雇用でも給料が上がらないというのがそのまま反映されているだけだ。男が稼いで女が家を守る…… というのは前時代的な考えだが、それでも男は自分の稼ぎで家族に楽をさせたい、と思ってしまうものだ。
一方女性は上記の理由もあるが「精神的に自由でいられる」「仕事に打ち込みたい」という理由が増えている。当然背景には女性の社会進出があるわけで、経済的に自立できれば女性も一人で生活していける。独身生活の利点として「行動や生き方が自由」が断トツに挙がっているのも裏付けている。仕事ではまだ賃金においても男女差別が残っているというが、自分一人生活するぐらいなら困らない人も多いのだろう。結婚願望は女性が男性の2倍強いというデータもあるが、現代社会では独身で満足できる女性も多いということか。
男女とも結婚しない理由で最も多い回答は「適当な相手にめぐり合わない」となっている。未婚率と晩婚率の上昇が上がる最大の理由と言えそうだが、ここには色々な理由が含まれていると考えられる。まず、回答者が何を考えて答えたのか。今日でも、いずれは結婚をして当然、と考えられている。男女合わせて9割弱が結婚の意志があると答えているのだが、現実結婚が遅くなる、あるいはしないまま歳を重ねていく現実がある。「適当な相手にめぐり合わない」とは、言葉の通り出会いがない、という意味もあるだろう。私なども平日は仕事で遅くまで会社、休日は家でぐったりしていることが多い。出会いなどそうそうないものだ。
「いずれ結婚するのが当然」と思われている現代、結婚したくない、できなくてもいいと思っている人は、正直に答え辛い。そういう人たちは「適当な相手がいない」と答えるだろう。実際「結婚するつもりはない」と答えている人は1割弱存在し、男性では20年前の約2倍、女性でも1.5倍に増えているのだ。「結婚するつもりはない」とカミングアウトするのは、特に女性には勇気のいることだ。変人扱いされかねない。もし「結婚しない人生」が当たり前になったとしたら「適当な相手にめぐり合わない」と「適当」に答えた人の結構な数が「結婚するつもりはない」に流れるとみている。男性では、酒が入るとそういった本音が漏れ聞こえることも多い。結婚のメリット、デメリットはさほど差がないように感じる時代だ。
結婚しない理由は、一人一つというわけではなく複合的なものだ。私などは金銭的な余裕がないし、独身の自由も満喫している。仕事には…… さほど打ち込んではいない。その分趣味の音楽の「打ち込み」にハマっているのだが…… それに正直な話、今結婚しなくても特に困らないのだ。(人の子だから「結婚するつもりはない」とは言えない)
もし結婚するとしたら、現状少なくとも、お金が無くても気にせず、自由を束縛せず、趣味に時間を費やすことを認めてくれる相手でなくては難しいということになる。
というわけで、そういう人を紹介してくれれば考えるが、それができないならあまり結婚結婚と言わないで欲しいというのが本音だ。尤も、そんな都合の良い女性が現れるはずもないだろう。やはりウェディングドレス姿の女性が部屋に飛び込んでくるのを待つのが正解か。
(戸次義継)