広島地裁で進行中の公判の様子をお伝えしてきた広島女児カバン連れ去り事件(関連エントリは下記)。10月23日には、起訴前に被告人の元成城大生・小玉智裕氏(21)の精神鑑定を実施した岡山県精神科医療センターの来住(きし)由樹医師が証人出廷したが、またしても興味深い証言を聞くことができた。
来住医師の鑑定によると、昨年9月に事件を起こした当時の小玉氏は、適応障害や広汎性発達障害が認められたが、これらは「犯行に影響がないか、直接的な影響はない」という。つまり、見知らぬ小6の女児をナイフで脅かし、旅行カバンに入れて連れ去ろうとした異常な犯行について、「責任能力は認められる」ということだ。しかし一方で、来住医師は小玉氏について、「広汎性発達障害を基盤とする空想癖」があったと認めたうえで、この空想癖が「犯行に間接的な影響を与えたと考えられる」と証言したのである。
来住医師によると、空想癖を持つ小玉氏が事件当時に没入していた空想は2つある。1つ目は、「植物工場を持ちたい」という空想だ。小玉氏は事件当時、事業計画などの現実的なことを考えず、どんな従業員を持ち、どんな装置で植物工場を運営するかという非現実的なことをひたすら空想していたという。もう1つの空想は、インターネットのチャットの中で「変態紳士」というキャラクターになり切るというもので、「変態紳士」となった小玉氏は他のチャット参加者と性的な空想のやりとりを繰り返していたという。
このうち、筆者がより興味深く感じたのは、1つ目の「植物工場を持ちたい」というやつだ。というのも、当欄でお伝えしてきた通り、「わいせつ目的略取」などの罪で起訴された小玉氏だが、公判の中では、犯行がわいせつ目的だったことに疑問を抱かせる事実が色々示されている。小玉氏本人は女児をさらった動機について、「植物工場をつくり、研究者や労働者にしようと思った」と証言し、そのことを裏づける事実が存在することもお伝えしてきた通りだ。それに加え、精神鑑定でも、この小玉氏が語る奇妙な犯行動機の裏づけになりえるような結果が出ていたわけである。
もっとも、来住医師によると、小玉氏が没入していた「植物工場」と「変態紳士」という2つの空想のうち、どちらが犯行に影響を与えたかは「精神医学の立場からは断定できない」という。犯行に影響を与えた空想が「変態紳士」のほうなら、わいせつ目的の犯行という検察の筋書きに整合するようにも受け取れるので、判断は難しいところだ。
いずれにしても、来住医師は「被告人は、他者との関係を気にせず、空想に没入してしまっていた。事件当時は空想が肥大して、彼がそれにとらわれた状態になっていたのは間違いない」と結論している。事件発生当初、「わいせつ目的」の異常な犯行と決めつけたような情報がかけめぐったこの事件の真相が、実際にはそれほど単純ではないことは確かである。
この来住医師の証人尋問で証拠調べは終わり、11月15日には、検察の論告求刑が行われる。無事に傍聴できたら、続報をまたお伝えしたい。
(片岡健)
★写真は、小玉氏の公判が行われている広島地裁。
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