映画館にて「ベイビ~大丈夫かっ Beat Child」を観てきた。映画というよりはドキュメンタリーだ。1987年8月22日夜からの、オールナイトのロックフェスティバルの模様が収められている。観客は3万人の予定が7万人まで観客が膨れ上がり、当時の国内ロックフェスとしては最大級のものとなった。それもそのはず、出演メンバーはThe Blue Hearts、岡村靖幸、白井貴子、ハウンド・ドッグ、BOOWY、尾崎豊、渡辺美里、佐野元春等々80’sを代表する豪華極まる布陣だ。

熊本は阿蘇の麓にある野外特設ステージは、突然の豪雨が一晩中降り続き、イベント続行も厳しい状態にあった。そんな中、ミュージシャンも観客もズブ濡れになりながら一夜を明かす。客席には濁流が押し寄せ、急激な気温の低下から倒れる人が続出。ステージは水浸しになり漏電の恐れもある状態だ。

しかしミュージシャン達は元気だった。甲本ヒロトは「サイコーだぜー」と叫び飛び跳ねる。彼は逆境の中に楽しみを見出すのが得意なのだ。白井貴子の時には機材がいかれてしまい、音が出なくなるもほぼアカペラ状態で歌い続ける。中止になるのかと不安になる中、大友康平は水浸しのステージをダイブして客席を盛り上げる。人一倍繊細な尾崎豊は客席に向かって「大丈夫かい?」と問いかける。

ロックはカッコよくない。泥臭く汗臭く汚らしい。そんな基本的なところを思い出す。多くの関係者が、21世紀の現代であれば中止だったと語る。出演者にトラブルがあったら、客の命に関わることがあったら、賠償問題にでもなったら…… そんなことを考えたらロックではない。ロックはもっと暴力的で、時に非情で残酷ものだ。着飾った煌びやかな衣装も、ハデなメイクも、泥と雨風でグシャグシャになってもやるのがロックだ。ロックの反骨精神は、そういうところから生まれたものだったはずだ。

そういう意味では、この映画の編集にはやや疑問がある。曲を途中で切ってナレーションが入ってくる度に興醒めしてしまう。オープニングは311震災と絡ませて、ガレキと濁流の中、真っ暗な被災地でラジオの音だけが頼りだったという状況を重ね合わせて作られている。大丈夫か、大丈夫かと執拗にナレーションを入れる。制作委員会の被災地支援金も紹介されていたが、こういったことを説明する必要はない。大雨と濁流の中でひたすら演奏し、それをただ眺める観客を映すだけで、感じ取れる人は感じ取れるはずだ。大丈夫か、は尾崎豊の一言で十分だ。

疑問のある編集や演出を抜きにしても、ただ80’sが好きだ、岡村靖幸のステージが観たい、今でも佐野元春を聴いている、そんな人であれば楽しめる内容だ。上映期間は2週間と短く、テレビ放送、DVD化、ネット配信一切無しと謳っている。真に勿体ない。興味を持った人が、観たい時に観る。曲を聴いて騒ぎたければ騒ぐ。儲かろうが儲かるまいが、出せるなら出してほしい。ロックの本質は、そこにあるのだから。

(戸次義継)