プロ野球はオフシーズンでも注目注目の話題が多数出てくる。メジャー移籍問題、ドラフト、契約更改と、寂しくなりがちなスポーツ紙を彩る。
その中で毎年、この時期に最も心にくるものは引退報道だ。往年のベテランからまだできるだろうという中堅、一瞬しか活躍できなかった若手など野球選手とひとくくりにしても、様々な人生がある。
2200試合出場、1800安打、400本塁打と華々しく活躍した楽天の山崎武司も今年で現役生活を終えた。通算180勝、日米での活躍のみならずユニークなキャラクターでテレビ出演も多かった石井一久も今年でユニフォームを脱いだ。巨人のレギュラーとして2000年代を彩った二岡智宏も、怪我に泣かされ今年で引退を決意した。
ファンも年齢と共に、野球の観方が変わってくる。子供の頃は単にハイレベルなプレーやホームラン、奪三振にワーワーと沸くことができた。野球場というものは、遊園地やコンサートとは違ったイベント空間だった。20歳前後にもなると、お目当ての女性を連れて「野球っていうものは楽しいものだよ」「今のプレーはこういうことなんだよ」なんて、コーチのごとく偉そうに教えながら気を惹こうとするのも趣がある。
30歳も過ぎると、ベテラン選手のプレーが気になってくる。20代の頃のように本塁打を量産する力がなくなっても、相手投手の配球を読んだ打撃や、経験から打球の行方を計算して動く守備に惹かれるものだ。ベテランと呼ばれる人は、多くは怪我に苦しみながら、万全とは言えない身体でプレーをしている。それを観ながら、仕事で辛い目を見ながら働く自分を重ね合わせていたりする。
子供の頃は、4番打者から転落した選手にはすぐに興味を失った。2軍に落ちた選手の事はすぐに忘れた。今は体力の限界で引退がささやかれる選手が気になる。戦力外になった選手、不振で他球団に放出された選手のその後が気になって仕方がない。別のチームでの活躍が報じられると、特別ファンでなくても嬉しいものだ。
先日、巨人の高橋由伸が「来期は引退覚悟で臨む」と口にしていた。長嶋茂雄氏に「天才」と言わしめた男も、怪我に悩まされ苦しいシーズンを続けている。凡人が努力で這い上がるストーリーも面白いが、天才は最後まで天才であってほしい。天才ですらカッコイイままで終われないのなら、凡人は夢を見るのも難しくなる。私は少年時代、所沢に住んでいた関係から西武ファンだ。黄金期の西武より人気があった巨人をひどく嫌ったりもしたが、身体をボロボロにしながら勝負に挑む男に対してファンもアンチもない。生涯巨人で、やはりあいつは天才だった、と思わせるプレーを続けて欲しい。
(戸次義継)