私のもとには日々、全国の刑務所や拘置所の被収容者から手紙が届く。その多くは無実の罪で獄中生活を強いられている冤罪被害者だ。今回紹介する田中龍郎さん(62)もその一人である。
田中さんは山梨県のショーパブで働きながら、高校生の長男と二人で暮らしていた2010年2月、新聞配達員の知人女性を殺害し、現金約57万円を奪ったとして強盗殺人の容疑で逮捕、起訴された。一貫して無実を訴えたが、2011年11月に最高裁に上告を棄却されて、無期懲役判決が確定。現在は山形刑務所で服役している。
筆者は控訴審段階からこの事件を取材し、田中さんが冤罪だと確信。2011年秋に発売された「冤罪File」第14号で取材結果を報告し、その後も田中さんと手紙のやりとりを続けている。田中さんの手紙はいつも感謝の言葉が連綿と綴られていて、何も大したことができていない筆者は恐縮してしまうのだが、今月初めにもらった手紙は再審に向け、これまでなかったような希望に溢れた内容だった(句読点と行替え以外は原文ママで転載)。
====以下、田中さんの手紙より転載====
(……前略……)本日お手紙しましたのは、先の手紙にも書きましたが、先月久し振りに入倉先生に手紙を出しまして、その後の動向や日弁連の動きについて、尋ねてみました。お忙しいのに早速に先月28日返事を頂きました。片岡さんも気に止めて頂いていましたので、お知らせしたいと思い、取り急ぎ要件だけでもと思い、ペンを取りました。
再審申立ての件につきましては、現在80%程準備は出来上がっていますので、本年中には提出する予定だとありました。日弁連に関しましては、入倉先生が主任弁護士として再審申立てを行った後に日弁連としては対応するとの事で、入倉先生は先ず、御自身が動かなくてはいけないと自覚なさっているとの、お手紙頂きました。
先生も私だけの担当でなく民事等でもお忙しい中動いてくださっているみたいで頭が下がります。私も皆さんに応援して頂いていますので、希望を持って頑張りたいと思います。片岡さんや御家族にも暖い、よいクリスマスが来ます様にお祈りしております(……後略……)
====以上、田中さんの手紙より転載====
田中さんの裁判では、田中さんに不利な証拠もたしかに存在したが、一方で田中さんは被害女性が殺害された時間帯に事実上アリバイが成立しており、そのほかにも田中さんが無実であることを示す事実は少なくなかった。しかし、裁判員裁判だった第一審と控訴審では、それらの事実がほとんど法廷に示されないままだった。第一審、控訴審共に国選弁護人が凄まじく怠慢な弁護士だったためである。
だが、そんな田中さんも上告審になって信頼できる国選弁護人に恵まれ、結果は上告棄却に終わったが、現在はその弁護士が手弁当で弁護人となり、再審請求の準備をしてくれている。それに加え、日弁連に再審支援の要請もしてくれているそうなのだが、雪冤への第一歩となる再審請求がいよいよ実現しそうなのだという。
裁判員裁判で出た無期懲役判決が実は冤罪判決だったという事案だけに、再審請求がなされたら、審理の流れ次第で大きな注目を集める可能性もある。今後何かめぼしい進展があれば、当欄でも報告させてもらうつもりだ。
(片岡健)
★写真は、田中さんから届いた手紙