2013年はボーカロイドが発表されてから10周年を迎えた年だった。ボーカロイドと言えば初音ミク、というのは今やバーチャルアイドルと知られ、知名度は一般にも浸透するほどになった。

元々ボーカロイドは単なる「音源」であり、人声を合成して歌っているかのように作成するデータでしかない。電車内で「次は~駅です。お出口は右側です」と機械的にアナウンスする声と原理的には同じものだ。シンセサイザーで疑似的に楽器の音を作り出すのと一緒で、ボーカロイドという技術にキャラクターもなければアイドル性もない。

2003年にヤマハからボーカロイドが発表された当時は、機械的な声で歌を作るという技術が示されただけだった。最初に発売されたLEONとLOLA(発売は2004年)は、初音ミクのようなキャラクターがあるわけでもなく、ただ男声、女声で歌声が作れるというものだった。技術的にもまだ弱く、英語版しかなかったこともあり国内では殆ど見向きもされなかった。日本語に対応した初のボーカロイドは2004年末に発売されたMEIKOで、女性ボーカリストのキャラクターも初めて添えられた。一部音楽制作者には話題になったものの、技術的にまだ不安定な音声ということもあって、アマチュア音楽家の興味を惹く程度に留まった。

爆発的なヒットになったのはやはり2006年に発売された初音ミクからで、改良されたVOCALOID2エンジンを採用し、制作テクニック次第では肉声に近いものが作れるようになった。さらにこの年、人気となった動画サイトYou Tubeが広まったのもあり、初音ミクのキャラクター画像をイメージとして表示すると同時に歌が表現できるようになり、音楽ソフトとしては異例の大ヒット商品となる。

2013年現在、制作者の技術も格段に進歩し、最新のVOCALOID3を使った初音ミクも発売された。本当に上手い人が作成したものは、一度聴いただけでは生歌なのか合成音声なのかわからないぐらいだ。ボーカロイドのキャラクター(ソフト)は数十種類にも増え、3Dで踊る動画を作成できるフリーのソフトや、動画と音声をミックスできるフリーのソフトが増えたこともあって、キャラクターが歌って踊る動画が山のように存在する。さらには特殊プロジェクターを使った疑似ライブも幾度も開催され、海外でも公演されるほどだ。初音ミクは札幌のイメージキャラクターにもなったり車のCMにも使われたり、果てはコスプレのエロネタにも使われたりと「バーチャルアイドル」としての人気は留まるところを知らない。

一方でふと、ただの音声合成ソフトなんだ、と思う。元々は合成音声を使って、歌を打ち込むソフトだ。DTMという、パソコンを使って作詞作曲をし、ドラムやギターの音を重ね合わせ、その上に初音ミクのボーカルを重ねる。どれもパソコン上で作成する、いたって地味な制作環境が変わったわけではない。

今や町中で初音ミクを観たり聴いたりする。巷でアイドル的な人気を得ている裏で、それとは無縁な所で作曲、作歌をしているデスクトップ・ミュージシャンのことを考える。彼らは大体本業は別に持っており、趣味や副業としてボーカロイド楽曲を制作している。ほとんど利益にもならない彼らの活動が人気を支えている。もう少し日の目を見てもいいのに、とアマチュア音楽家の端くれは思う。

(戸次義継)