派遣で働いている、複数の知り合いが給料が上がった。もちろん格差社会の是正にはほど遠い。というか、安倍政権はそんなことまでは目指していないだろうが、経済がよくなっているのは事実だ。
自民党のホームページを見ると、昨年のほぼ1年間で株価は88%アップ。79.51円(2012年11月4日)から105.30円(2013年12月30日)と円高から円安へ。求人倍率は、083倍から1.00倍にアップ。GDPは-3.6%から4.5%にアップとなっている。

もちろん儲かっているのは円安の恩恵をダイレクトに受ける輸出中心の大企業。庶民が受けている恩恵は小さい。
だが、アベノミクスの成果を、それはそれとして評価してみるのも、1つの手である。
現在、日本では原発は1つも動いていない。原発を停めたままだと経済が停滞するという原発推進派の主張が、皮肉にも原発推進を是とする安倍政権の手で木っ端微塵に吹き飛んでいるのだから。

そんなことに焦りを感じたのか、甘利明経済再生相は、脱原発を掲げて東京都知事選立候補を決断した細川護煕元首相を、10日の記者会見で「殿ご乱心」と揶揄した。
これはもちろん、細川氏が肥後熊本藩主だった肥後細川家の第18代当主であるからだが、そんな皮肉など、言える立場か。

2011年5月、当時の菅首相の要請によって浜岡原発が停止した際、甘利氏はブログにこんなことを書いている。
「浜岡原発の『要請停止』が他地区の原発にドミノ倒しのように連鎖していけば日本経済は壊滅的打撃を受けます」
甘利氏の言葉をそのまま借りれば、ドミノ倒しのようにして日本の原発は全停止に至った。だが、それによって日本経済は壊滅的打撃を受けたのか。アベノミクスの成果を高らかに歌い上げている自民党自身が、「そんなことはありません」と答えるだろう。

2011年6月、テレビ東京の「週刊ニュース通信」に甘利氏は出演した。
第一次安倍内閣で甘利氏が経産相だった2006年12月13日、国会に共産党の吉井英勝衆院議員から「巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問注意書」が提出されている。そこでは、地震や津波によって外部電源や、原発内の内部発電装置も機能しなくなる危険性が問われている。その時の安倍政権の回答は、「全く問題ない」というものだった。
番組の田勢康弘キャスターがその経緯を話し、「福島第一原発の事故は、自公政権時代の安全対策の不備によるものではないか?」と問うと、甘利氏は何も答えることができず、その場から去ってしまった。
番組では「取材中断」という字幕が入り、主の消えた甘利の椅子が映し出された。

取材後、甘利氏はインタビューを放送しないようにと、記者に迫った。
「流されたら大変な事になる。あなたも一回そういう目に遭った方が良い。誹謗中傷されたらどんなに辛いか」
記者は、この要求を承諾しなかった。
テレビ東京は放送した。約束を破ったとして、甘利氏はテレビ東京を訴えた。
2013年1月29日の東京地裁の判決は、「不適切な質問方法があったとは認められない」「(放送しないという約束が)成立したとは認められない」と述べている。

乱心しているのは、いったい誰なのだろうか。

(深笛義也)