今年、イザイホーが復活するかも知れない、と言われている。知ってほしいような、知ってほしくないような情報だ。
イザイホーが行われてきたのは、久高島。沖縄本島東南端に伸びる知念岬の東に浮かんでいる。周囲8キロの小さな島だ。自転車をこげば、小1時間で島の端から端まで行けてしまう。
琉球の創世神アマミキヨが天から最初に降りたって国造りを始めたとされるのが、久高島だ。
古くから「男は海人(ウミンチュ)、女は神人(カミンチュ)」と言われ、神事を司るのは女性だ。
祭祀が行われる御嶽(うたき)は、男子禁制であり、筆者は入ることができない。ビデオで見たが、原っぱに香炉がポツンと置かれているだけ。古来からの信仰のあり方が守られてきたのだ。
沖縄各地の御嶽には、鳥居が立てられているところも少なくない。明治維新からの皇民化政策による神道施設化である。
だが、久高島の御嶽には鳥居はない。
沖縄の他の地域の御嶽に立てられた鳥居のことを聞くと、神人だった女性は、いつもの優しい顔をけわしくして、言った。
「鳥居は、建てた人が、責任持って取り払わなければいけないね」
久高島の不思議の一つは、個人の土地の所有がないことだ。土地は島の共有で、家や田畑に使う土地は、島の共同体から借りる形になっている。
明治6年の地租改正によって、日本のすべての農地は私有地になったはずだから、これはけっこう不思議だ。
神の島には、手がつけられなかった、ということだろうか。
久高島では様々な神事が行われるが、最大のものがイザイホー。4日間に渡って行われる。
神人になるのは普通の主婦。それを神々に認証してもらう儀式が、イザイホーだ。
12年に1度、午年に行われる。600年以上の歴史を持つが、1978年を最後に行われていない。外に出て行く女性が多く、神人のなり手がいなってしまったのだ。
今年は、36年ぶりに、イザイホーが行われるかもしれない。
島のよさを分かって、神人になる女性が現れたということだろう。
期待をするとともに、心配もある。あまりにも多くの観光客が押し寄せて、神聖が薄れてしまっては困る。
だから、知ってほしいような、知ってほしくないような気がする。
(深笛義也)