「裁判のこと、マスコミではどういうふうに書かれていましたか?」
去る1月23日の正午前、広島拘置所の面会室。つい3日前、広島高裁で控訴棄却の判決を受けた湖山忠志氏(29)は、そう筆者に尋ねきた。筆者は判決公判を他用で傍聴できなかったのだが、地元紙・山口新聞の1月21日付け朝刊によると、裁判長が判決理由の朗読を終えた後、湖山氏は目の前の証言台を蹴り上げ、裁判長らに向かって「ふざけとるんか」「責任とれや」などと言って暴れだし、拘置所職員に抑えられながら退廷したように報じられていた。しかし、湖山氏本人はその時の記憶がまったくないと言う。
「判決の主文を聞いて、しばらくすると頭がボワーとしてきて、記憶が飛んでしまったんです。意識が戻った時、自分はすでに法廷を出ていて、手錠をかけられた状態で椅子に座り、うなだれていました……」
湖山氏にとって、今回の裁判の結果がそういう状態に追い込まれるほどショックだったということだろう。
2011年11月、下関市で6歳の女児が自宅アパート近くの側溝で、他殺体で見つかったこの事件。被害女児の母親と交際していた湖山氏は殺人などの容疑で逮捕、起訴され、一貫して無実を訴えながら2012年7月、山口地裁の裁判員裁判で懲役30年の有罪判決を受けた。しかし、当欄では過去にも紹介したように、その有罪認定に問題がなかったわけではない。むしろ現場で湖山氏以外の第三者の毛髪やDNA、指紋が見つかるなど、湖山氏とは別人の犯行を疑わせる事実も少なくなかった。だが結果として、控訴審でも湖山氏の無罪の訴えは裁判官に届かなかったのだ。
湖山氏は言う。
「現場にあった第三者の毛髪を調べ直すとか、DNAの再鑑定をやるとか、証拠をちゃんと調べて上での判決なら、少しは納得できたかもしれません。しかし、この控訴審では、何も調べられなかった。裁判官は初めから自分のことを犯人と決めつけていたように思えます」
現在29歳で、下関市の実家には小さな娘さんがいる湖山氏。最高裁は原則として事実審理をしないことを知りつつも、最後まで逆転無罪を目指し、今後も獄中にいながら色々動いていくつもりという。事件をめぐって何か新しい展開があれば、また当欄で報告したい。
(片岡健)
★写真は、湖山氏が勾留されている広島拘置所。
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