「弁護士の先生は一審も二審もよくやってくれました」
「鳥取刑務所でも松江刑務所でも職員の人達はすごく良くしてくれています」
筆者の取材経験上、無実を訴えながら有罪判決を受けた被告人は、無罪判決をとれなかった弁護士や自分を犯罪者扱いする拘置所・刑務所の職員たちへの不満を訴えることが少なくない。だが、彼女の場合、そういうことは一切ないばかりか、他者への感謝の思いばかりを口にする。ただ、それにしても、公判が終わって退廷する際、敵であるはずの検察官にまでお辞儀していたのは少々驚いた。本人はそのことを記憶していないというのだが……。
「裁判の時は緊張していたので……無意識のうちにお辞儀していたのかもしれませんね」
昨年12月、松江刑務所の面会室。マスコミが「西の毒婦」と呼んだ鳥取連続不審死事件の上田美由紀被告(40)はそう言って笑った。
家電代金の支払いや借金の返済を逃れるため、2人の男性を殺害したとして強盗殺人罪などに問われている上田被告。一貫して無実を訴えながら一昨年12月、鳥取地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けた。現在は広島高裁松江支部の控訴審で再び無罪を求めて争っているが、1月29日の第3回公判で審理は終結し、3月20日に2度目の判決を宣告される予定である。
当欄では昨年11月14日付けのエントリでもお伝えしたように筆者は控訴審段階になって、遅ればせながらこの事件を取材するようになった。上田被告とは昨年9月から計9回面会し、手紙のやりとりも重ねてきた。そうした取材を通じ、マスコミ報道で抱いていた上田被告に対するイメージはずいぶん変わっている。
まず、上田被告は「小さい」。マスコミでよく見かけたTシャル姿の写真から大柄な怪人物であるような印象を抱いていたのだが、実際に会ってみると、背丈は筆者の肩くらいまでしかなく(140センチ台後半だそうだ)、むしろ弱々しい感じもする人物だったのだ。上田被告と一緒に取り込み詐欺を繰り返していたとして逮捕、起訴された同居男性(実刑判決を受けて服役し、すでに出所)に対し、上田被告が暴力をふるっていたという情報もあったが、筆者は実際に会った本人から暴力的な雰囲気を感じ取ることはできなかった。
そんな上田被告は第一審の公判では黙秘したが、判決公判後に裁判員らに対し、「ありがとうございました」と言い、深々と頭を下げたことが話題になっていた。自分に対する死刑判決を選択した裁判員たちに対し、なぜ礼を言ったのか。そう質問すると、上田被告は筆者の目を見据えながらこう言った。
「裁判員の方たちは75日間も拘束されて、色々ワケのわからないものを見せられて、すごくしんどく、辛かったと思うんです。私が同じ立場だったら、途中で辞退していると思います。それで思わず、頭を下げ、『ありがとうございます』って言ってしまったんです」
上田被告は少なくとも別件の詐欺の容疑については本人も罪を認めており、決して清廉潔白な人物ではない。しかし、こうした性格の良さを感じさせる言葉には嘘はないように思われた。
もちろん、上田被告の性格に良いところがあっても、それだけで無実の主張が信用できることにはならない。だが、改めて事実関係を冷静に見つめてみると、この事件では、上田被告を有罪と認めるには腑に落ちない事実も散見される。今後もこの事件については、当欄で取材結果をレポートさせてもらうことになるだろう。
(片岡健)
★写真は、上田被告が拘禁されている松江刑務所