2011年に下関市で6歳の女児が殺害され、湖山忠志氏という在日韓国人の男性が殺人などの容疑で逮捕、起訴された事件について、筆者は当欄でたびたび取り上げてきた。それは、この事件は何かと問題が多いからである。

最大の問題は、湖山氏が本当に犯人なのか、ということだ。湖山氏は一貫して無実を訴えながら、一昨年7月に山口地裁の裁判員裁判で懲役30年の判決を受け、さらに今年1月、広島高裁の控訴審でも無実の訴えを退けられた。しかし、実を言うと裁判では、湖山氏とは別の第三者による犯行を疑わせる数々の事実が判明していた。それがこの事件の実相なのである(詳しくは、下記の関連記事1などを参照)。

しかも、裁判員裁判の法廷では、この事件を捜査した検事に「ある重大疑惑」も浮上していた。それは、山口地検の保木本正樹三席検事(現在は東京法務局訟務部付検事)が取調べで湖山氏に対し、凄まじい民族差別発言を浴びせていた疑惑である。疑惑の詳細は、下記の関連記事2などでお伝えした通りだが、事実なら懲戒免職は確実なレベルの疑惑と言っていい。

と言っても、こうした話を知っている人はマレだろう。マスコミでほとんど報じられていないからである。

筆者は第一審終了後、勾留先の広島拘置所で湖山氏と面会を重ね、手紙のやりとりも続けてきたのだが、先日、控訴審の判決結果などを伝える地元紙(山口新聞と中国新聞)の記事のコピーを差し入れたところ、湖山氏から届いたお礼の手紙には、そんなマスコミへの憤りが切々と綴られていた(筆者注:引用中の○○は、原文では人の名前)。

=====以下、湖山氏の手紙から引用=====

記事のコピーを送って頂き、ありがとうございます。読んでみて思ったことが、「冤罪」である、または、「冤罪の可能性がある」などの言葉が一切なく、腹立たしく思いました。この様な記事しか載せられない現状のマスコミだから、私はマスコミが嫌いなんです。

弁護士の会見コメントでもあるように、私が犯人であるという証左はなにもないんです。それを世間は何も知らずに、今回の控訴棄却は妥当だとか、頭から私を犯人としか思っていなく、その上、報道でその思いに拍車をかけ、世間は警察、検察は正しい事をした、裁判所は正しい判断をしたと思い込まされて、誰も警察、検察を疑いもせず、「冤罪」という言葉を忘れてしまっているのが、今の日本の現状でしょう。

だから私は、世間に幅広く内部、中身を知ってもらい、冤罪を一人でも多くの人に声を出して言ってもらいたいです。もちろん、○○さんや○○さん、そして片岡さんにもお願いしたいことであります。片岡さんの知人の方で、冤罪と声に出して頂ける方がいましたら、ぜひ、力になって頂きたいものです。もちろん、私も持っているものは出し惜しみしません(以下略)

=====以上、湖山氏の手紙から引用=====

この事件を取材した地元マスコミの記者がこの湖山氏の訴えを目にしたら、「マスコミだって万能ではない」「事件は他にも色々あって時間が限られる中、やるべきことはやっている」などと不満に思うかもしれない。しかし振り返ると、マスコミは事件発生当初から被害女児の母親の交際相手(=湖山氏のこと)が怪しいようにほのめかすなどの過熱気味の報道を展開していた。それでいながら、いまだにこの事件の冤罪疑惑や捜査検事の民族差別発言疑惑がろくに報じられていないのだから、湖山氏が怒るのも無理はない。

湖山氏は最高裁に上告し、まだまだ諦めずに無実を訴えていくつもりでいる。筆者が当欄でこの事件についてレポートさせて頂く機会もまだ何度もあるだろう。

(片岡健)

★写真は、記事中で引用した湖山氏の手紙。

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