「最高の責任者は私だ」として、あたかも自らが憲法解釈を行いうるかのような、安倍晋三首相の国会答弁に注目が集まっている。
これはもちろん大問題だが、その陰で、安倍政権が明確に原発の再稼働に舵を切っていることは、あまり注目されていない。
2月25日に、政府がまとめた「エネルギー基本計画」の原案は、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた。
「ベースロード電源」とは、季節や時間帯に関係なく安定的に出力できるという意味で、電力供給の基礎を原発に置くということだ。
原案には、原子力規制委員会の新規制基準をクリアした原発について「再稼働を進める」とも明記されている。
この原案策定は、経産省で昨年暮れから進められてきた。
それが一時ストップしていた。東京都知事選があったからだ。
脱原発を掲げる、細川、宇都宮陣営に対して、自民党が押す舛添陣営は、原発は争点ではない、というスタンスを取った。
その最中に、原発再稼働を言い出せば、原発が争点になってしまう。
それで、奥に引っ込めていたわけだ。
舛添圧勝という結果を受けて、原発再稼働を表に出してくるのは、きわめておかしな道筋ではないか。
細川、宇都宮に集まった票は、2人を合わせても桝添の票には届かなかった。
選挙は結果がすべてだが、脱原発をめぐる都民の声は、二分されたと言ってもいい。
どんな少数の意見にも耳を傾けるのが、本来の民主主義だが、宇都宮に投じられた98万票、細川に投じられた95万票は、とても少数とは言えないだろう。
そして、都知事選の最中に舛添陣営が言ってきたことは、原発政策は国が決めることであり、都議選のテーマにはそぐわない、ということだった。
その言葉通りのことを自民党が信じているのならば、国の政策としての「エネルギー基本計画」は、都議選の最中であろうと、策定を進めればいいではないか。
しかし実際には、原発を争点にしないといっていた舛添の圧勝という結果を受けて、原発再稼働に向かおうとしている。
民主主義の道筋から考えて、あまりにおかしな成り行きだ。
原発政策においても、「最高の責任者は私だ」とする驕りが、安倍首相には見える。
2月19日、福島第一原発では、1リットル当たり2億ベクレル超の汚染水が約100トン、タンクから漏れだしている。
原発事故は収束していない。
こうしたことに向き合おうとせず、原発再稼働を進めようとする安倍政権に注目が必要だ。
(深笛義也)